2018-06-02

市役所前

コイツちょっと病気気味で、なんでもそのまま喋ってしまうんですよ、と男は連れのペンギンを撫でた。

「ほんとうに?おまえ、ペンギンなのに喋れるの?」

膝を曲げてペンギンに目を合わせた。

ヘミングウェイペンギンが言った。

わたしは辺りを見回したが、ヘミングウェイは見当たらなかった。つぎに彼の短編に似た話があったか思い出そうとしたが、わたしのなかで彼はカーヴァーと混ざっていたし、そのどれにもないように思えた。

「博識なんだね」

ペンギンの首と胴の継ぎ目あたりを撫でたが、どこが継ぎ目かはわからいかった。羽毛はざらざらしたと固く、ほのかに暖かかった。

ペンギンは首をうなだれた。

ヘミングウェイペンギンが言った。

わたしはざらざらを撫でた。海で生きるための身体だと感じた。ペンギンは悲しそうに見えたが、表情なんてある生き物でもなかった。

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