2010-10-18

外国語の詩の暗誦 ― 趣味と実益を兼ねて ―

外国語勉強法にはいろいろあるが、ネイティブが書いた文章をそのまま丸暗記する方法は古典的なものと言っていいかもしれない。よく知られているところではシュリーマンがいるが、日本人では渡部昇一が叙述文を丸暗記したという話がある。専門の英語だけではなくて、ラテン語の習得のために「ガリア戦記」を筆写して覚えたそうだ。ただ、この方法はひどく手間がかかりすぎる。外国語を専門にする大学院生ならできるかもしれないが、一般にはなかなか難しい。

そこで出てくるのが詩の暗誦である。詩なら、特に長いものでなければ、覚えることに大きな努力を必要としないので、一般には重宝するはずなのである。ここで詩を暗記することのメリットを、思いつくままに書き連ねてみよう。

単語の暗記に役立つ

言葉の相互の関係が散文より密接なので覚えやすい

・「音声」「音」「リズム」に対する感覚を磨く

・音やリズムを覚えると読むスピードがはやくなる

・聞き取りも楽になる

・口の動きがその言語に慣れる

言葉そのものに対する感覚を磨く

・暗記力そのものがのびる

・詩の知識そのものが有用

まだありそうだがこの辺にしておいて、次にデメリットとしてどんなものがあるだろうか。

・すぐに役立つ表現は滅多にない

・方法として回りくどい

・難解すぎて誰にでもお勧めできない

・そもそも暗記が苦手

などが、思いつくところ。

そこでネット検索してみたが、どうやら外国語教育と詩の暗誦の関係に関する研究日本ではあまりないらしい。それでも、いくつか記事や論文を読んでみたが、誤解とは言わないまでも、もうちょっと書き方があるのではと思われるものがいくつかあった。

(とりあえず、英語詩と教育に関する論文としては以下のものが読める。

http://www.lib.kobe-u.ac.jp/repository/90001054.pdf

http://miuse.mie-u.ac.jp:8080/bitstream/10076/4578/1/AN002341770510007.PDF

ネットで見たところに限ると、詩の「読解」という表現が散見された。が、これは誤解を生みやすい、あまりよくない表現だと思う。「読解」とは「ある文章の意味が分かること」を指す。「英語の長文読解」というと長い英文の理解を問うのが一般的だ。

しかし、詩は「読解」するだけでは意味がない。韻律にきちんとのせないと詩にならないのであって、「読解」はそのための前提でしかない。単語意味や文法的なつながりを理解して、そしてようやく韻律に意味音楽性が生まれる。

もちろん、詩の理解を無視して、音だけで覚えてしまう方法もある。けれども、成人の場合は難しいだろうし、なにより退屈に過ぎると思う。(ところが、矛盾するようだが、詩を楽しみ味わうコツは最初にとにかく丸暗記してしまうこと、覚えようとしてしまうことだったりする)

さらに、たとえ「読解」ができても、正しい韻律にのせられるかどうかは、残念ながらまた別の話だ。少なくともちゃんとした発音が頭の中で鳴っていなければ、文字だけで韻律まで汲み取るのは相当に困難な作業であるという点は認めなくてはいけない。リンクした論文には、シェイクスピア台詞の韻文はネイティブでも解釈が分かれるとあった。

しかし、そういった困難を乗り越えると、一生の宝物になること間違いなしの喜びが眼前にひろがっていることに気がつくはずだ。

最初は疎ましい、面倒くさいこと限りがなかった「読解」や「韻律」の困難さが、徐々に謎解きを解くような喜びに変わる。詩を暗記してしまってから、よりよいリズムイントネーションを見つけた時、分かったつもりになっていたフレーズに別の光を当ててみるとそこに思いがけない新たな姿が立ち上がった時、この発見の喜びは何物にも変えがたいものとなる。それになにより、韻律にのった、言葉による音の遊びが、こんなに純粋快楽なのだということが、外国人にも分かる瞬間がある。そうなると、その言語がますます好きになってくる。なにより、身近なものとして、自分の一部として、最初は遠い存在であった外国語外国文化がより近しいものに感じられるだろう。

外国語の詩の暗誦は、たしかに回り道ではあり、ある程度文法や単語がしっかりしていないとついていけないかもしれないが、しかし実用一辺倒で詩の鑑賞を捨ててしまうのも実にもったいない話であって、ささやかな、しかし一生の趣味として「詩の暗誦」は悪いものでは決してないと思う。

外国語学習を、単なる道具の使い方と割り切って考えるのは大事なことではあるのだが、しかしもう一面として、その言語文化や彼我の人間の違いを知ることという、俗な言い方をすれば「異文化理解」のために重要だという要素を、決して忘れることはできない。外国語勉強は、長く、つらい。しかしそこに宝物があることを感得できれば、つらいことにも耐えられる。お勉強してよかったなと思える。外国語の詩の暗誦は、お勉強の結果与えられるご褒美として、もう少し積極的に語られても良いのではないか。

(追記)

http://anond.hatelabo.jp/20101018172417

道具として文化コンテクストを理解する必要があるという立場だったら 映画を丸暗記した方が良いような気がする。

映画の丸暗記もよく勧められる方法だが、「文化コンテクストを理解する」よりも、「すぐに使えるフレーズを覚える」には役立つだろうと思う。ただし、やったことはないので、詩の暗誦のような喜びがあるのかどうかまでは、分からない。

(追記終わり)

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