[2009.11.6]
日本以外の中央銀行はみんな紙幣を刷っていて、中央銀行の資産はとんでもない比率で伸びている。日本だけが財政規律を唱え、日銀の資産を増やさないでいるのは異常であるという主張らしい。
日本以外の中央銀行が資産を増やす過程で、それらの国家の国債の金利は、一様に下げてきている。これに対し、日本の金利はバブル崩壊以後、ずうっと低金利に張り付いていて、下げる余地が無い状態が続いてきた。
つまり、比較の原点が、ずれているのである。
中央銀行が抱え込める資産というのは、ようするに、国土を切り売りして支払う事ができる限度額である。日本の場合、地下資源が無く、一億二千万人の高度な教育を受けた誠実な労働力(最近はそうではなくなって来ているが)だけで経済を回していた状態であり、国家破綻後の債権回収という場面において、担保価値があるのは国土だけ、労働力は当てにならないという常識から、中央銀行が抱え込める資産の規模としては、既に限界に達している。
この限界に達している国家と、数%の高金利で国債を発行できるだけの健全な財政を維持し、十分な担保価値のある地下資源を持っている国家との差を、考えなければならない。
日本以外の中央銀行が紙幣を刷り、資産を増やしていけるのは、経済的に維持できる限界に近づいただけで、既に限界状態を20年近く続けている日本とは、まだまだ体力的な差がある。
中央銀行の資産が増えたり、財政赤字が増加すると、金利を上げられなくなる。金利を上げると、国債の利払いだけで税収が吹っ飛ぶという状態になる為である。日本の場合、国と地方が抱えている財政赤字は合計で1000兆円を超えている。国税は直接・間接を全部合わせて約40兆円である。つまり、国債の平均金利が4%上昇したら、税収が利払いだけで消滅する事になる。3年で平均値が4%上昇するには12%、5年で平均値が4%上昇するには8%まで金利が上がらなければならないが、そういう危険性がいつ実現してもおかしくない状態にある。
このような状況は、金利を低くして、国民のお金が国債だけに集まるようにしなければ維持できない為に、株式投資等は、投資利回りの低い投資で無ければならず、国策として、不景気であってくれないと困るという状況が生まれてくる。他国の景気回復に依存して輸出産業の利益を求めるというのは、時間を稼ぐ手段であって、状況を改善する効果は無い。状況を改善するには、まずはプライマリーバランスの実現が必要であるし、少なくとも、税収以上の歳出を止めるという財政の健全化が無ければ、先の展望が無い。
国民の預貯金や年金の積み立てが十分にあって、国債を買う資金があるうちは、自転車操業は回っていくが、それらが輸出先の不景気やグローバリゼーションによる輸出産業の喪失や少子高齢化といった理由で減り始めると、国債を買うお金がなくなり、低金利が維持できなくなって破綻するのである。この破綻を、政府紙幣を発行して政府発行の国債を買い、国債を中央銀行に売り渡して、その売り上げとなった中央銀行発行のお金でばら撒きを行うというのが、おそらく、リフレ派の狙いであろう。中央銀行のバランスシート上は、国債と現金とが見合いになるが、国債の裏付けが税収ではなく政府発行の政府紙幣となる事から、貨幣の価値が毀損されるのである。
リフレ派は、貨幣の価値は中央銀行のバランスシートによって担保されていると考えているのであろう。中央銀行が力を持ちすぎると、中央銀行の首を縦に振らせさえすれば良いと短絡的な思考をする者が出てくるのである。中央銀行の役割は貨幣価値の番人であって、貨幣価値を勝手に変更できるわけではない。不換紙幣制度における通貨の信任は、生まれる前から存在していたからという理由で永久不滅なのではない。その価値を毀損しないように、一般受容性を維持する為に財政の健全性を維持する行為が続いているから、存続しているだけである。
周りの人がやってくれるなら、自分の選挙区ぐらいならばら撒いても大丈夫だろうという人が現れ、"あそこの先生は道路や公園や公民館や補助金を持ってきてくれるそうだが、オラが在所の先生はどうかね?"という、平等主義の選挙民達が集りまくったのが、自民党の長期安定政権の実体であり、その決算が、莫大な財政赤字であり、結果が、金利を上げられない国内事情となり、その将来が、国内産業の崩壊と失業者・無業者の増加となる。この末路を何とか変えなければならないのだが、今の政権では無理だろうし、未だにばら撒きを求めるリフレ派がのさばっているのでは、有権者の側からの意識改革も難しいようである。
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この限界に達している国家と、数%の高金利で国債を発行できるだけの健全な財政を維持し、十分な担保価値のある地下資源を持っている国家との差を、考えなければならない。 バラ...