2008-02-26

Aさんの実家で見た遺影と骨壺と父親

http://anond.hatelabo.jp/20080226015115

Aさんの命日から2ヶ月ほど経ったある日。

出張のついでに彼女実家を訪ねてみた。

今の家から電車で2時間。昔住んでいた家からは5km程の距離だ。

バブル期に分譲されたマンションだった。彼女の父親が羽振り良かった頃のものだろう。

ただ、彼女母親に部屋へ招かれると、非常に殺風景だった。

家具は古いし内装を変えた気配もない。2人の娘がいた家だとは思えない。

父親の本棚には大月マルクスエンゲルス全集やその手の本がホコリを被って並んでいた。

彼女の遺影の前で手を合わせた。

49日を過ぎたが、まだ骨壺はそこにあった。

お墓をどうするのかまだ決まっていないという。

夫の墓に娘の骨を入れたくなさそう。複雑な家族環境がなんとなくうかがえる。

たぶん、もう一人の娘が片付いたら、夫と別れる気なんだろう

最初、母親は「娘のことは忘れてください」と何度も繰り返していた。

「ご迷惑おかけして申し訳ございません」と言うのだ。

気まずい雰囲気が流れる。

ただ、僕が学校での彼女の想い出を喋り始めると、やや空気は変わった。

やっぱり遺書めいた物は残していないらしい。

その理由を追い求めたくなるのは共通する。

知っている彼女と側面と別な姿を知りたいというのも同じだ。

彼女病院に行くのを嫌がっていたが、

最期の数ヶ月、「僕のために」通うことを承諾したのだという。

僕も、Aさんから結婚してくれと頼まれたことを伝えた。

お役に立てず申し訳ないというと、

母親は「あの子も、ラクになりたかったのでしょう」と答えた。

彼女の小さいときの写真を見せてもらった。高校卒業アルバムも見た。

やはりいつも笑顔がない。なにか硬直した感じになっている。

笑うときもいつも引きつったような顔しかできなかったのを思い出す。

小学校高学年から大学生まで顔も髪型も何も変わらないというのも分かった。

プロポーズ言葉は「私の胸囲は小学六年生の平均だから」だったが、それは本当だった。

時間ほどしたのでお暇しようとすると、玄関の音が鳴った。

父親が帰ってきたらしい。でも、まだ平日の3時前なのに早めの帰宅だ。

リストラされた団塊世代。きちんとした職に就いていないのだろうか

来客である僕に軽く会釈をした後、自分の部屋へ向かった。

パソコンの立ち上げ音が聞こえる。かなり古めのタイプだ。

来客が来ているのに何しているの、と口論をしているのが聞こえる。

どうもネットで株取引をしているらしい。

それから20分ほどして、羊羹とお茶が運ばれ、父親がやってきた。

「このたびは……」と切り出すが、会話は全く続かない。

命を絶った娘の遺影を前にして座る、男と父親。

話すべき言葉は何もない。

仕方がない。カバンの中から一つの封筒をとりだして見せた。

あるネット彼女が自分の心境を書き殴った文章を印字してきたのだ。

それを伝えると、父親は封筒から紙を取り出し、食い入るように見つめ始めた。

それを見ながら、この人、顔も性格も娘とそっくりだなと実感した。

この父親も、子ども社会とどう接すればいいのか分からなかったのだろう。

彼女が小さいときも、思春期になってもお互いの距離感を確認できなかった。

でも、なんとなくこのダメおやじの哀しみとジレンマも分かってしまった。

実は、もう一つ封筒を用意していた。

そっちにはAさんの両親に対する罵詈雑言も書かれていた。

でも、お互い、知らないこともあった方がいい。

帰り間際、土砂降りの中、母親バス停まで見送ってくれた。

来てくれてありがとうと繰り返した。

僕と同様、彼女の死をどう受け止めればいいのか分からなかった。

その気持ちを共有する人間を求めていたのだろう。

で、両親の気持ちも分かってしまった僕は行き詰まった。

Aさんの気持ちで考えれば考えるほど、絶望しか目の前にはない。

あの子に、もう他に生き残るための選択肢はなかったんだと痛感した。

崖っぷちに立った僕に見えるのは、ただ真っ白な霧だけだった。

その2週間後、僕はついに潰れてしまった

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