2007-05-29

http://anond.hatelabo.jp/20070529003249

被告JASRACの主張も、判決も、カラオケ法理を前提にしているから、カラオケ法理を理解したほうが分かりやすいです。

カラオケ法理を詳しく知っているわけではないけど、自分が理解した範囲で書きます。

元にした資料は、文部科学省のページから。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/05072901/004-2.htm

カラオケ法理というのは、著作権の利用をしているのは誰かという、主体を考えるときの理論で、著作権の侵害を考えるときには、侵害者は誰かを考えるときの理論です。

著作権の侵害者は、一般には、複製や公衆送信をした人です。だけど、特定の場合には、サービスを提供した人が著作権の侵害者(主体)になります。このような、サービスを提供した人を著作権の侵害者とするための理論が、カラオケ法理です。

このカラオケ法理というのは、P2Pファイル交換サービスファイルローグ事件のときにも適用されました。

ファイルローグ事件で、どんな条件を満たした場合にカラオケ法理が適用されたかというと、上記リンク先にも書いてあるとおり、

a)同サービス提供者の行為の内容・性質、

b)利用者のする送信可能化状態に対する同サービス提供者の管理・支配の程度、

c)同サービス提供者の行為によって受ける同者の利益の状況

等を総合斟酌して判断すべきとされました。


そして、今回の訴訟では、

ア 目的

 本件サーバにおける複製は,音源データバックアップなどとして,ファイルを単に保存すること自体に意味がある

のではなく,原告の提供する本件サービスの手順の一環として,最終的な携帯電話での音源データの利用に向けたものであり,……携帯電話ダウンロードが可能な形のサイト(本件サーバストレージ)に音源データアップロードし,本件サーバでこれを蔵置する複製行為は,本件サービスにおいて,極めて重要プロセスと位置付けられる。

イ 行為の内容

 説明図4において本件サーバに管理著作物が複製されることは,当事者間に争いがない。

ウ 本件サーバの役割

 本件サーバは,本件サービスにおけるこのような目的を実現するため,原告が所有し,管理して,維持運営する専用サーバであって,それ以外の役割を担うものではない。

エ ユーザの役割

 個々の3G2ファイルの蔵置について,その操作の端緒として,インターネットを経由したユーザの行為が観念できるとしても,ここでの蔵置による複製行為は,専ら,原告の管理下にある本件サーバにおいて,行われるものである。

オ 有償性

 原告の提供する本件サービスは,前記1(1)認定のとおり,ベータ版での試用では,月額料金が当面無料とされているが,当初から,有料化と機能の拡張が予定されていた。

裁判官は認定しました。

このことにより、本件訴訟では、カラオケ法理が適用されたのです。


で、増田さんが書かれた、

サービス上の仕組みがここで定義する管理著作物以外のアップロードを不可とする仕組みではなく、管理著作物以外のデータの配信が可能であるという事は、自由な内容のコンテンツアップロードできる掲示板や一般のストレージサービスと本件は同じであるという事になりかねないんじゃないのかな。

は、自由な内容のコンテンツアップロードできる掲示板や一般のストレージサービスが、上記した内容・性質から考えると、音楽著作物の複製のためのサービスではないので、カラオケ法理が適用され難いと思います。

また、

殆どの掲示板や一般のストレージサービスアップロードされるコンテンツの複製権及び公衆送信権アップロードしたユーザにあり、アップロードの過程や内容に全く関与する立場にない管理者がこれらのコンテンツの複製権及び公衆送信権を持てない

管理者がアップロードの過程や内容に全く関与する立場にないのであれば、カラオケ法理は適用され難く、この点で本件訴訟とは異なるのではないでしょうか。

さらに、

アップロードされるコンテンツが(結果として)JASRACの管理著作物ばかりであるとして、しかしこの判決に則るのならば配信サービスを提供する場合にアップロードされたファイルに対して許諾を受けなければいけない事に変わりは無く

カラオケ法理が適用されるなら、許諾を受けなければいけないでしょうね。本件では、原告は、被告JASRACから許諾の申し出があったのでサービスを停止して、本件訴訟JASRACには差止請求権がないことを確認しようとしました。

カラオケ法理が適用されない掲示板等であれば、許諾を受ける必要は無いでしょう。


栗原氏のブログに書き込まれているコメントのほうが、私より参考になる気がします。

記事への反応 -
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    • そのコメント読んでも、判決のどういった部分について「本サービスのみに特化した」判決と読み取ってるのか分からん。 結局、サーバー蓄積型の配信形態について過度の責任を科す判...

      • 判決では、ストレージサービスを提供したから侵害だ、という論理構成にはなっていません。 むしろ、被告(JASRACは訴えられた側だから被告です)は、「MYUTA」というサービスが、一般の...

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