ゼミで気になる先輩がいた。初めて会ったときは、すごく無愛想で、人見知りが強そうな印象だった。
けれども、それは最初だけだった。毎月のように飲み会をして、毎日のように会って、すぐに親しくなった。
ちょっとしたしぐさが、居眠りをしているときの表情が、笑っているときのその顔が、すごくかわいくて、好きだった。
いつもいつも、肩や手が触れそうなくらいの近さで隣を歩いていた。ドキドキして、何も話せないことが多かったけど。
ゼミで雑談をしていたときに、先輩は「同性と付き合うなんて無理ー」とたびたび言っていた。
いつも親しくしてくれているのは、後輩としてかわいがってくれているようだった。
あわよくば、と思っていたけれど、それは叶わないのだと知った。そして、それでもいまの関係が続くだけで十分だと思っていた。
それからしばらくたって、飲み会の帰りに、先輩とふたりきりになった。
「じゃーこれから暴露大会だー!」。先輩はすっかり酔っていた。飲み会のあと、ふたりきりで、なにを暴露するつもりなんだ。
「じつは、同性愛者なんだー!」。隣から聞こえてきたのは、思いがけない言葉だった。
何が起きているのかまったく分からなかったけれど、自分もそれに応えた。「先輩と同じです」。
自分も動揺していたけれど、先輩も動揺していた。お互いどうしたらいいのか、分からなかった。
すこし間をおいて、「きみのこと、嫌いじゃないよ?」。先輩がそう言った。
先輩の顔はうつむきがちだったけれど、赤く染まっていたようだった。かなり声が震えていた。
思い切って言った。
「先輩、好きです」
ひとけのないところで、唇を重ねた。