夜中、突然に風呂の電球が切れたので、コンビニまで買いにいった。行ってから気づいたのだけれど、ちゃんと品番を控えていない。
家に調べに帰るのはめんどうだなと思っていると、横で同じように並んでいる電球を目の前に思案している、濡れた髪を乾かしたばかりの匂いのする、けっこうかわいい女の子がいた。
なんとなく目があって、気まずいし、誰にたいしてなのかよくわからない恥ずかしい気持ちになるので、普段ならなにも言わずにコンビニの島を一周するんだけれど、
思わず話しかけた。
「ワンルームのお風呂の電球って、ごく普通の丸いヤツなんですけどどれですか」
自分の口から出て行く言葉を喉の奥から手を出して引っ込めることができたらいいのになとおもうような
なんでもない言葉が出てきたんだけれども、その女の子は、話しかけられたことに驚いた様子もなにもなく、
すごく自然に笑ってくれた
「私はお風呂に入っている途中に急にパチンと真っ暗になっちゃって。ホンマびっくりしました。全部手探りで!
ハミガキは床に落とすし、いつもやるシャンプーは一回で、いつもは二回シャンプーしてからトリートメントなんやけど
一回にしてトリートメントも一瞬で流して、すぐにあがってきたん」
すごい勢いでこうまくしたて、一気に言い終わってからまた笑って「ごめんなこんなに勢い込んで喋って」と言いながら
丸い電球を二つ棚から手に取り、一つをぼくの手の上に乗せてくれた。
そのまま無言でレジへと向かったので、犬ぞりのリーダーに導かれるあんまり頭の良くない犬みたいに虚無の顔でついて行き、
彼女は会計を済ませた。
ああ、これでバイバイかな、なんでこんな感じで女の子に話しかけられたのかなとうれしいような寂しいような気持ちになっていると、
その女の子は僕を待っているのかそうでないのか、アイスクリーム冷蔵庫の上に乗っている、コンビニでやっているクリスマスケーキや、年末カウントダウンイベントのチケット告知を見ていた。
僕は目の前でレジをしている前髪を垂らしたド金髪の男に、「この見かけを派手にしたけれどあっさりとしすぎな能面フェイスめ、その前髪の長さはお前の内向的な性格と必死の自己防御の表れなんだよぐずぐずんなハイドーハイドー!」と呪った結果か、かなりスムーズで一分以内にお金を払い終えた。今後、同じような境遇になったときのために(たぶんないだろうけど)携帯でできる電子決済についてちょっと興味が出てきながら、駆け足で相手に強烈なプレッシャーを感じさせないようにアイスクリーム冷蔵庫そばの彼女のところに行き、なんか気のきいたこと、今後につながるなにかしらなにかしらなにかしらなにかしら な に か し ら ないかなと手に脂汗グッチョリ状態で十秒ぐらい必死に回らない頭で考えた結果出てきたのが
「アイスクリームケーキって、今年も製造年月日偽装することになるんかなアレ、アレ、赤福とかでもあったでしょ赤福。ケーキとかクリスマスに一気に作るわけには絶対にいかないから先に作っておいて冷凍しておいてね、それを解凍して生クリームだけ仕上げにして箱の中に入れるんだよこれは人からきいたとか最近のあれこれじゃなくって学生の時にケーキ屋さんでアルバイトをしていた友達がいて、クリスマスシーズンになると一日中冷蔵庫のなかで作業する一日バイトとかする募集がいっぱい出るし、クリスマスフェアとか見ると楽しいっていうよりもいっつもバイト大変だなとかその話をしていたヤツとはもう音信不通になったけれどどうしているかなって」
頭の中ではつまらない話をしているなだめだこれではこんなネガティブな時事ネタとか初対面の人に振ってはいけないし方向転換しなくてはいけないな。そもそもそんなに黒いことばっかり言う人間じゃないよ僕は。でもとっさにこんな事が出てくるなんてやっぱ意地が悪いのかそれならそれである程度は認めつつも、せっかくこうして普通に話をできる状態になったんだから状態っていうかコンビニで立ち話だけれどもこのままではいかん聞き上手にならなくては、といっても今更聞き上手にここでなれるわけはないから、せめてポジティブでふんわりした甘い話題甘い話題甘い話題。それも急に言って意表を突こうとして言ったそばから後悔したのだけれど
こんなコントでもなんか作文でもちょっとそんなことを言わないだろうっていう言葉を口にして、汗をかきながら苦しげな顔をしていただろう僕に彼女は
つづき読みたいです。
わかる。 わかりたくないが、わかる。 心拍数までわかる。
続き読みたいです。とりあえず、コンビニに電球買いに行ってきます
こういうの、いいなぁ・・・