2015-08-05

トタン屋根に降る雨 谷川俊太郎

子どもだった頃から同じ音だ

落葉松の枝に散らされた雨のしずくが

規則屋根を打つ音はむしろ乾いていて

音楽とは似ても似つかないのが快い

 

凍りついた霜のような模様のガラス窓と

こてあとが残してある白い壁と

ゆがんでたてつけの悪い扉がこの家の特徴だ

毎年夥しい虫が家の中で死んでいる

 

もう子どもの泣き声や笑い声は聞こえない

人は年をとってだんだん静かになる

表面はどんなに賑やかでも

 

身近な死者が増えてきた

彼らにしてやれたことよりも

してやれなかったことのほうがずっと多い

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