たいエゴイストだ。たゞ神のみ名によるエゴイストだと、君はもう一遍、云って呉れ。さうでなくてさへ、俺の胸は裂けやうとする。
純黒 俺の胸も裂けやうとする。おゝ。町はづれのたそがれの家で、顔のまっ赤な女が、一人で、せわしく飯をかき込んだ。それから、水色の汽車の窓の所で、瘠せた旅人が、青白い苹果にパクと噛みついた。俺は一人になる。君は此処から行かないで呉れ。
蒼冷 ありがたう。判った。判ってゐるよ。けれども俺は快楽主義者だ。冷たい朝の空気製のビールを考へてゐる。枯草を詰めた木沓のダンスを懐かしく思ふのだ。
純黒 俺だって、それは、君に劣らない。あの融け残った、霧の中の青い後光を有った栗の木や、明方の雲に冷たく熟れた木莓や。それでも それでも。俺は豚の脂を食べやうと思ふ。俺の胸よ。強くなれ。お里の知れた少しの涙でしめされるな。強くなれ。
蒼冷 俺は強くならうともしない。弱くならうともしない。すべては神のなるが如くになれ。