一度だけ、おかあさんの夢を見た。
在りし日のように、背を向けた状態で、俺に何かボソボソ言ってた。
でもその時、これは夢だ、と思った。だから、思いっきり抱きついた。
もう訳分からず目を開けたら、俺は両手を自分の腹に当てていた。
だんだん、涙ぐむことはなくなってきた。
いつもの生活に戻っていく。時間が解決してくれることは、なんとなく分かってた。
でも、自分の中にある、おかあさんの生きた軌跡は、忘れたくない。
今、俺は生きている。おかあさんは死んだ。俺も、あとどれくらいか知らんけど、死ぬ。
おかあさんは、死ぬ直前、何を思って死んだんだろうか?
伝えたかったこと、たくさんあったろうに。
少し前から、おかあさんに言おうと思ってたこと、言えなかった。これまで、ありがとうも言えず、だから、
言いたかった。
おかあさん、ありがとう。
実家にある、おかあさんの物は、まだ、そのまま。服、くつ、台所まわり、冷凍庫の中、財布。
でも、まだやっぱりつらいよ。
おかあさんが突然いなくなって、1ケ月ちょっと。
俺には、何を言いたかったのかなあ。夢の中に出てきて、言ってくれんかなあ。