金融機関に対するストレステストの結果、必要な資本金の増額は750億ドルと算出された。これだけ増資すれば、とりあえず、自己資本ルールに引っかからないというお墨付きを出したわけで、これ以上経済状況が悪化しなければという但し書きが付いているが、底打ち宣言を出したことになる。
で、この750億ドルをどうやって都合つけるかという話になるのであるが、金融安定化法に基づく計7000億ドルの公的資金のうち、手付かずで残っていた資金が1096億ドル、繰り上げ返済されたのが250億ドルで、あわせて1346億ドルが動かせる。750億ドルの需要は、これで賄えるわけである。
つぎの問題は、資本金が増えた分だけ、運用しなければならないお金が増えた事になるという、運用の問題になってくる。
投資という、一番穏やかな方法で考えると、後進国や中進国への海外投資はTax Heaven撲滅法によって事実上ストップさせられているわけだから、国内投資となるのだが、アメリカの国内法や判例は、全然変わっていないわけで、産業投資が合理的になる状況にはない。となると、投機という話になる。で、商品先物市場を眺めてみると、WTIもWHEATもSOYBEANSもCORNも上がってきている。
不況の最中に現れる官製相場の典型的な動きになっているわけである。
というのも、基本的な法制度が変わっていない状態で規制だけが厳しくなっているのだから、株も債券も土地も投資して値が上がるわけが無い。自分が買った時よりも高値で他人に売り飛ばせる物といえば、生活必需品を買い占めて値段を吊り上げるぐらいしか無いので、そこに資金が集まる。すると、物価が上昇し始める。失業者を吸収する雇用が生まれたわけではないのに物価が上昇すると、いわゆるスタグフレーションになる。そこで、官製相場としては、スタグフレーション防止の為に、コモディティマーケットに対して規制をかけなければならなくなり、物価のコントロールまで行政の仕事になってしまう。
雇用を生み出さない限り、景気の回復は無く、資金のだぶつき具合と規制の匙加減で相場が上下するという状況が、当面続くのである。
日本においても、失われた10年が終わっても、デフレ基調が続いているのは、雇用の創出が行われていない為である。かつての欧州病といわれた低迷が、グローバリゼーションで富を得た後進国や中進国の反米意識による資金逃避先としての流入によって、一時的に改善されたのをユーロの栄光であると後付けの理由でごまかしているが、欧州病は、日本にもアメリカにも伝染している状態で、"担税能力のある雇用の創出"以外の本格的な治療方法が、未だに見つかっていないのである。
安定した状態が続くと、リスクを背負って働く民間企業よりも、書類をいじり、会議でぐだぐだと時間を浪費する官僚や政治家の方が楽だし報酬も多額という状況になりやすい。優秀な人がみなそれを目指すようになると、担税能力のある雇用は消滅していくばかりとなり、低迷病をこじらせてしまうのである。
低迷病は豚インフルよりも恐ろしい。豚インフルならば、感染さえしなければ発病しないが、低迷病は国家全体を蝕み、国民全員に不利益を押し付けるのである。低迷病は、デフレ状態であれば失業が増加して緩やかな破綻へと向かうし、インフレにしようとすれば雇用が増えずに物価が上昇するのでスタグフレーションになり、激烈な破綻へと向かってしまう。増えすぎた公務員・準公務員を削減し、お金が欲しいなら民間企業で働けと待遇を悪化させ、優秀な人にリスクと取ってもらうという手段が必要なのだが、理屈は正しくてもそれを実行する事が難しい問題であるが故に、宿痾となるのである。
ストレステストは、金融機関の自己資本の額を政府が強制できるという道具でしかない。増資を強制された金融機関が、政府に泣きついて国有化の度合いを高めていくか、あるいは、公的資金を全部返済して、商品相場で買占めをやって儲けるから安心して公募増資に参加しろと開き直るかという問題になる。