2009-04-01

ある男の人間失格

小説とは嘘である。だから今日という日にここに小説を書くというのは理にかなった行為であると思う。だから今日はここに存分に書いてやる。書きまくってやる。小説だから嘘なのであり実在の人物などには関係がないのである。勘違いしないように。ちなみに筆者は太宰治の『人間失格』を読んだことはないのだが、きっとこういう話なのだろう。

もはや死んでしまいたいと男は思った。

だが死ねなかった。死ねるはずもなかった。あらゆることに下手な嘘をつき、死にたいという自分の気持ちにすら嘘をつくようになった。ただ問題を先送りし、問題をさらに悪いものにするしか能がない男にそこまでする甲斐性も度胸もあるはずがなかった。男はもはや生きているのか死んでいるのかよくわからない生活をするようになった。今もそうしている。

男がこうなってしまったのは大学4年のときにさかのぼる。彼は初めて留年したのだ。

中学受験も成功し、そのままエスカレーター高校も入学、大学受験も某有名国立大学に入学と順風満帆な人生だった。ところが大学3年に入ってからその人生がきしみはじめた。前期のあるテストで今までにないほどに手も足も出なかったのだ。その出来事は男のプライドを大いに傷つけ、その傷ついたプライドを修復しようとするあまり大いに肥大させた。「授業に出なくても大丈夫だ」とよくわからない妄想をするようになったのだ。後期は惨敗だった。

留年という事実に耐え切れなくなった肥大したプライドは男を逃避行動に誘った。挫折を経ず、反抗もすることもなかった男は見た目以上に子供だった。外に出ることをやめてしまった。インターネット肥大したプライドを慰めることしかできなくなった。いわゆる引きこもりニートになってしまった。事あるごとにつっかかり、事あるごとに自分を卑下し罵倒した。いや、自分罵倒する癖は以前からあった。

男は過去にあった忌まわしい記憶をいつまでも覚えており、些細なことでそれを思い出し、後悔するという妙な癖があった。その記憶自分に好意があった女の子を泣かせたとか、自分重要な役の学芸会に少しの熱で休みそのことを先生に怒られたとか、他人から見たらなぜそんなことで思い悩まなければならないのか不思議で仕方がない代物ばかりである。だが男はそんな自分が許せなかった。そんな癖が自分だけでありおかしいことに気がついたときにはたまりにたまり、もはや取り返しがつかないほどのトラウマ状態になってしまっていた。それを思い出したときは数分間自分罵倒し続ける時間が続き、何もできなくなってしまうほどになっていた。

言うまでもなくその癖は引きこもりになっている間にさらに悪化した。些細なことに対してでさえ自分を許せない男が引きこもりになった自分を許せるわけもなかった。授業に出ないこと、ネット依存していること、ろくに外に出ないこと、ただだらだら寝ていること、まるで掃除をしないこと、自分に嘘をついていること、それらすべてが自分罵倒する理由となった。もはや何をすることもできなくなっていた。4年の前期は1単位も取れなかった。

さすがに心配になった指導教官カウンセリングを男に薦めた。だが男は自分を騙すほどの嘘つきになっていた。カウンセラーの前でひたすら自分の好きなことをしゃべるばかりでまったく役にはたたなかった。後期も単位はなかった。

男は引越しをすることにした。自分引きこもりになった原因をネット依存だけに転嫁しようと思い立ち、インターネットができない環境自分をおくことにした。だがもはや遅かった。男の癖はインターネットがあろうがなかろうが関係ないほどにその心を犯していた。ネットがなくなり依存するものがなくなった男はただ寝続けるようになった。

彼が反抗することを知っていればどれだけよかったであろうか。それでストレスを発散でき多少なりとも心の均衡が取れれば多少の改善は期待できただろう。だが彼は反抗することを知らなかった。限りなく彼は子供だった。ただ寝続け、そんな自分罵倒することを繰り返した。その1年、彼は人をやめた。

彼は研究が好きだった。あらゆる物の分析が好きだった。ひたすらひとつのことに没頭できれば幸せであった。そんな男の夢は研究者エンジニアになることだった。だがもはや彼がエンジニアになることはないであろう。勉強ができない、向上できないエンジニア価値はない。夢は閉ざされた。

男はようやくエンジニアになることをあきらめ、学校中退就職することにしようと考えるようになった。だが考えるのが遅すぎた。その年、世界大恐慌に見舞われた。それはいまだかつてないほどの大恐慌だった。部品を作り、それを組み立て、海外に輸出するという商業体系に依存している日本はその恐慌をまともに受けてしまっていて、働き口などなかった。

男は再び迷っている。まだ退学届けを出していなかったので大学に戻ることはできる。だが戻ったところで勉強できる保証などない。いや、できるわけがない。だがこのまま就職活動していてもこの大不況のときに2留で中退などという男を雇ってくれるなどという酔狂な企業も期待できない。たとえ来年景気が回復しても、彼はおそらく新たなトラウマでもう就職活動などできなくなっているだろう。

今男は真剣に死ぬことについて考えている。

だが彼が死ねるわけがないのだ。自殺できるものは勇気があるのだろう。死ぬ勇気が。彼にはない。遺された親族のことを考えるとそんな気も失せてしまう。それはただ死なないでいい理由を探しているだけの逃避なのだが。これから彼は親が死ぬまで一生依存していくしかないのかもしれない。いやきっとそうなるのだろう。

嘘つきで親不孝。男は人間として失格であった。



もう一度言うがこれはフィクションだから現実世界とは関係ない、ただの物語である。

ちなみに筆者はこの世のあらゆることは面白さに満ちていると考えてるので何があろうと絶対自殺することはできないと思います。

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  • 二留なら余裕。いやホントに。 なんとでも言い訳出来るからな。 ただ、まずはとにかく人に慣れないと。 会話の力が極端に無くなってるはずだから。 まあマーチ出てクレーン運転し...

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  • たぶん必要な時期だったんだと思うよ。 あと大学は絶対に辞めるな。8年いっぱいかかったとしても辞めるな。 「大卒」という経歴には、他では代わりの効かない社会的価値があるよ。

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