米ドルを基軸通貨の地位から蹴落とし、人民元をその地位に据えるには、アメリカを滅ぼして、アメリカの地位を乗っ取るというわかり易い手法がある。しかし、さすがにそれは難しいとして、中国の力を蓄えつつ、アメリカを弱体化させるという、遠回りではあるが、着実な道を選択している。
IMFの準備通貨に米ドル以外の通貨を加えるべきという中国の中央銀行である人民銀行総裁の発言が出ている。この発言は、十分に予想可能な内容である。しかし、問題は、そのタイミングにある。
アメリカは、1兆ドルの予算でバッドバンクを始めるが、負債を単純に買い取るだけでは、企業は反省しない。
不良債権には、仕入れのコストがかかっている。現在の価値に比べて、そのコスト分の支払いが過大だから、不良債権となっている。この仕入れのコストを支払う為に、政府から融資を受けなければならない。しかし、担保物権には、本質的に価値が無い。そこで、政府から融資を受けるが、その融資をバッドバンクに出資し、不良債権をバッドバンクに売り渡し、代金として、出資分を返してもらう。そのお金で、コストを支払う事で、連鎖的な破綻を防げる。
バッドバンクへの出資と、政府からの融資とは見合っている。企業は利益を上げて政府からの融資を返済すると同時に、同額だけ、バッドバンクへの出資を減資する。この仕組みが活きている間、企業には順当に利益を上げてもらわなければならない。つまり、産業管理体制に入り、さらに、国内産業を保護する為に、保護主義をバリバリにやるという事になる。
自由貿易体制を維持する装置としてのドルポンプが無い状態で、アメリカが貿易のセンターとしての活動を、事実上、ストップする事になるのである。
このタイミングで、IMFの準備通貨を多様化しろと主張するのは、米ドルとの交換比率を固定でき、多くの消費者と世界の工場としての生産能力を持つ中国の通貨"人民元"を準備通貨に加えろという主張に等しい。
IMFのフレームで、南米や中東の反米国家に人民元を貸し、中国で生産された工業製品を買わせるという手法を想定しているのであろう。反米でさえあれば何でも飛びつく中東諸国や、工作が浸透している南米諸国が賛成に回るという読みで、このタイミングで出してきたのであろう。
アメリカは、自由貿易体制と国内の産業管理体制を、同時に維持するという綱渡りをすることになる。これは、背反する条件となっているので、ゲームボードを軍事力によってひっくり返すという手段ぐらいしか、選択肢が無い状態へと向かうのである。