※この話はフィクションです。実在の団体・組織・個人・事件とは一切関係がありません。
「下町再生コンサルタント?コンサルタントはんが当行に何の御用ですかな?」
四菱UAJ銀行亀沼町支店支店長の飯沼哲朗はズレ落ちそうになる黒縁眼鏡を戻し、
不信感を含む視線をその男に向けた。
この忙しい時期に・・・。
飯沼の視線には八つ当たりのような苛立ちも混じっていた。
亀沼では長い間、四菱銀行とUAJ銀行そしてあさひ銀行の三つ巴となっていた。
その亀沼天満から駅までの商店街には優良個人商店が多く、そのほとんどをあさひが押さえていた。
それに対して旧四和銀行から派生したUAJは個人顧客を押さえ、四菱は中小企業を相手としていた。
しかし、長引く不況と高齢化からUAJの個人顧客は高齢化で先細り、建設業が多い四菱もまた苦戦していた。
こうした背景から、四菱UAJ銀行沼有町支店では優良取引先の拡大と芳しくない中小企業を相手とした不良債権の処理が当面の急務であった。
こうした背景から、暴力的とも批判されるその豪腕を見込まれ、飯沼は大阪から東京の下町亀沼へと呼ばれたのだった。
この日、飯沼を苛立たせていたのは日経新聞の記事である。
虎ノ門でのUAJ支店と四菱支店統合の際に、不要になった四菱支店の土地を売った。
その売った先が良くなかった。
ここ亀沼でも他人事ではない。
四菱側の店舗へと統合したため、UAJ側の店舗と土地が余った。
この処理をどうするかが飯沼の課題の1つであった。
売却まであと一歩のところで、虎ノ門での一件から地元の警察から待ったが掛かった。
それどころか、同じ匂いを嗅ぎつけたマスコミの対応まで降ってきたのだ。
せっかくの取引も振り出しへと戻ってしまった。
その不満と苛立ちが、普段は隠している飯沼の関西弁をところどころに出させていた。
「我々は四菱銀行さんにちょっとした提案をお持ちしました」
鷹津恭介と名乗ったその男は猛禽類を思わせるその細い目をさらに細めたように見えた。
亀沼出身の有力都議会議員の紹介で来た為か、その提案に相当自信があるのか。
飯沼はその上からの目線に不快感を感じた。
「合併でいらなくなった亀沼天満へと向かう蔵通りの交差点にあるUAJ支店跡。
あの跡地の活用案を提案させていただきたいと思いましてね」
鷹津の横に座る若い男がファイルングされた一つの企画書をうやうやしく飯沼の前に差し出した。
その企画書の題名と1ページ目をめくった飯沼の顔色が変わった。
「鷹津さん、もっと詳しく聞かせていただきましょう」
無理やりにでも標準語に変え、飯沼は座りなおした。