2008-06-25

正直アンタとは酒でも飲みながらゆっくりと話したい気分だ

http://anond.hatelabo.jp/20080625200249

もっともオレは酒が飲めないのだが。

なんか色々話してるうちに、自分の方でも「ああ、そうだなあ」と思ったことがあったので、それを書いてそろそろ打ち止めにする。増田

個人的には、明治の初めまで日本人の「論理的思考力」は漢文を学ぶことによって鍛えられていたと思うが、同じ役割を英語に期待するのはやはり難しいと思う

時折こういう話を聞くが、俺は日本語が特別、外国語と比較して論理記述力に劣るとは考えていないので「論理的思考力」は日本語で学ぶべきだと思う。

ただ、日本語自然言語であるので、訓練をしないと容易に論理と感情が混同されるのでそう言う意味では、プログラム言語で「論理的思考力」を鍛えるのはアリだと思う。

と書いた。もちろん、日本語論理的に使うことが不可能だとは言わない。だが、たとえば一人称主語に何を選ぶかという選択において、絶対的な指標がなく、相手との関係性に依存して決定されるという言語が、西洋的な意味で「論理的」な言語であると言うのはやはり難しいように思う。というより、それは日本語の特長を積極的に評価する道ではないように思える。

日本語の「意味」を論理的に説明する難しさとは、たとえば、こんな文例を想像してみるとよく分かる。

例(1)

A「うーん、たぶんそんなことはないんじゃないかな、と思わないでもない、というか、大丈夫じゃないかな、心配しすぎのように思ったりもするんだけど、実際、ね?」

B「ん…ありがと。Aってやさしいよね。だけどわたしはわたしなりにやっぱりね、もう色々考えたりしてるんだ。なんてゆーか、いっそさっぱりしたいかな、とか。だめかな?」

こういった、日本語の日常会話は、論理的な情報伝達を目指してはいない(たとえばこの会話を可能な限り忠実に英訳したとして、それが理解可能な正しい意味での英語にならないだろうということはほぼ確実だと感じられる。一方で、この一見意味不明な会話の背景状況、話者達の関係、年齢や生活の様子、今後、などが全く見えてこないというネイティブ日本語話者は非常に少ないのではないか。多くの人が、たとえば「20前後女性二人が恋愛について相談のような会話、一方が男性側のいい加減な態度に業を煮やして、別れを考慮すべきかといったことについて相談中」……といった状況を想定したのではないか。だがこれは論理的に導き出される内容ではない。)。それが目指しているのは、状況や関係性に基づいた「雰囲気」「空気」「気分」といった感情の共感であり、つまるところ「あなたとわたしは刻々と変化しつつある世界の中で現在○○という関係にある」という共通了解を醸成する所にある。一語目の「うーん」にしてからが、明らかに目下の者が目上の者に使う言葉ではなく、むしろどちらかといえばその逆の関係で使われる言葉であって、その関係性が次の状況判断的な言葉を呼び込み(つまり、AはBに対して、自分は相手をある程度客観的に見ることの出来る位置から見ていて、同時にその立場からある程度Bに対して親身な意見を述べる……といったニュアンスが、最初の「うーん」にはこめられており、それによって「そんなことはない」というこの状況に対するジャッジを下す発言を可能にしている。更に、その上でなおその発言が相手を傷つける可能性に顧慮した話者Aは、その断定を「たぶん」と「じゃない」「かな」という言葉コーティングしているのであり、そのコーティングが以下述べられていく言葉の外形を作り出している)、そのようにして話が前へ前へと展開していく構造をしている。このAの発言が、たとえば

例(2)の1

A「えっとね、それは無い。」

だったとすると、「情報伝達」的にこれは例(1)とほとんど変わらない発言であるにもかかわらず、Bの

例(2)の2

B「……Aってさあ、冷たいよね。」

という反応を引き起こすであろうことは想像に難くない。なぜなら、(2)におけるAの発言は、事実をただ事実として述べ伝えているだけで、AとBの関係がいかなるものであったとしても(恋人でも友人でも他人でも)変わることのない発言に過ぎない、すなわちA/Bの関係性への配慮が全くゼロの発言だからだ。これらにおいてBはAの発言の「情報」に対して応答しているのではなく、「気分」に対して応答しているのであり、我々もまた両者の気分に反応して、この会話を見ているのである。

これは、後半の話とも密接に関わっている。確かに増田が言うように「議論をするにはそのOSを統一するというのは前提」なのであるが、そもそも日本社会では、日本語の会話において議論などしないのが普通であったのだ、ということである。用語を統一したりしない、主語が明らかでない、関係依存的な語彙がやたら豊富である、文末決定的である……日本語の特徴は、議論するための言葉としての「弱さ」と理解するのでなく、それこそが日本語(というか日本語をOSとして精錬してきたこの民族)の特長なのだと考えるべきなのだ。今日国語」の授業が論理的な思考力を育てることよりも、相も変わらぬ「ブンガク」教育に精を出している(個人的にはせめて両方やれと思うわけだが)ように見えるのは、日本社会において相変わらず「理を述べる力」よりも「空気が読める力」の方が重視されているからなのだと思う。それが良いのか悪いのか、は、また別の問題であるが、要するにこれはそういう社会のあり方そのものに関わる問題なのだ、というのが、最初に思った「ああ、そうだなあ」の内容であった。

もちろん、そういった授業が再生産されていくという状況に関しては、誰かがあげていた「現行の国語の授業に適した人間が次代の国語教師になるというシステム上の問題」も絡むが、ここではもう触れない。

それにしても、個人的には、正直ブンガク馬鹿人間よりも増田のような人の方が国語教師には向いている気がするんだがなあ……。今の仕事やめて国語教師に転職する気はないかね?増田(笑)

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              • 論理の問題であれば数学があるからねえ。

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      • 高校国語の話と、より広義で(主に大学レベル以上の)文学とを、仕分けして話すべきなんじゃないかと

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