2021-02-17

なめろう小説

私は漁師町に住む漁師の妻。

遠洋漁業で家を空けることが多い夫。

次帰ってくるのは半年後だ。

今日は夕飯になめろうを作る。

鰹のなめろう

鯵は骨が細かく取りづらいので我が家では鰹でなめろうを作る。

まな板で鰹を叩いていると肉片が四方に飛び散る。

28の若くも老けてもいない、ただ数年前より確実に瑞々しさがなくなった二の腕に肉片が付いた。

その肉片をふと眺める。

口を近づけ、肉片がついた二の腕に吸い付く。

口の中で舌をナメクジのように這わせ、二の腕についた肉片を食べた。

まだ味付けをしていない生臭い肉片。

ふと旦那との情事を思い出す。

あれはいつだっただろうか。

あの時も夕飯はなめろうだった。

味噌生姜を入れてもまだ鰹の生臭さは取りきることはできない。

私はごめんねというのだが、旦那は「海の男にはこれくらいが丁度良い」と笑い飛ばす。

私は良くないのだ。

歯を磨いても取りきれない生臭さ。

その生臭い舌が私の舌を舐める

頸を舐め、乳首を舐め回す。

二人の時間が終わった後、私はシャワーを浴びた。

鰹臭くなった身体を洗う。

なんでこの日に限ってなめろうなんて作ったのだろうと後悔した。

ただ、鰹の臭いを洗い流す時間、それも幸せだったのかもしれない。

今はそう思う。

叩いた鰹に味噌醤油生姜大葉を入れる。

大葉あの日以来入れている。

2階にいる息子を呼ぶ。

なめろうは息子の大好物だ。

風を切るように降りてくる息子から海の香りがした。

美味しそうになめろうを頬張る息子は何故我が家なめろう大葉が入っているのか知らない。

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