使い慣れない刃物は、しばしばけがの元である。少なくとも私にとっては。しかし、かえってそれで血を吸わせたことによって、そいつは自分の一部になるような幻想がある。
思えば、実家での冒険には必ず伴われた鉈も、厨二病に負けて買った偽のアーミーナイフも、独居を始めて調達した穴開き包丁も、結婚祝いで頂戴したフードプロセッサーも、そうであった。
冒険をするような土地を離れるのと平仄を合わせるように柄が腐り果て、泣く泣く別れた鉈以外はすべていまだに奉公を受けている。
なんでこんなことを言うかと問われれば、今日包丁を研いだのである。この包丁は我が血を吸った同胞である、きっとこれからいい仕事をするのだ。イテェ・・・