2009-02-17

村上春樹エルサレム講演と「ペスト

http://d.hatena.ne.jp/sho_ta/20090216/1234786976 の"unique divinity of the individual"に着想を得ました。

英文の引用は http://www.jpost.com/servlet/Satellite?cid=1233304788868&pagename=JPost%2FJPArticle%2FShowFull

和訳の引用は http://anond.hatelabo.jp/20090217011603


上段:村上氏の発言(訳されたもの)

中断:村上氏の発言(JPostより引用

下段:アルベール・カミュ作「ペスト新潮文庫、第67刷、2006年刊)」


固く高い壁があり、卵が壁に打ち壊されるなら、壁がどんなに正しく卵がどんなに誤っていても私は卵の側に立ちます。

If there is a hard, high wall

and an egg that breaks against it,

no matter how right the wall or how wrong the egg,

I will stand on the side of the egg.

「この地上には天災犠牲者というものがあるということ、そうして、できうるかぎり天災に与することを拒否しなければならぬということだ」 (P377)

「あの大物のペスト患者たち~略~もまたその場合の立派な理由があるわけだし、もし僕が小物のペスト患者たちのもちだす不可抗力という理由と、必要性ということを容認するとしたら、大物どものそれも否認することができなくなる」 (P373, 374)

「僕はこう考えた。 ~略~ このいまわしい虐殺にそれこそたった一つの ~略~ 根拠でも与えるようなことは絶対に拒否しようと」 (P374)


どうしてなのか?私たちそれぞれは卵であり、壊れやすい卵にくるまれた唯一無二の存在だからです。私たちそれぞれは高い壁を前にしています。高い壁とはシステムです。それは通常では個人として受け入れがたいものを私たちに強います。

Why? Because each of us is an egg, a unique soul enclosed in a fragile egg.

Each of us is confronting a high wall.

The high wall is the system which forces us to do the things

we would not ordinarily see fit to do as individuals.

「僕の問題というのは、つまりあの胸にあいた穴だったのだ」 (P374)

「われわれはみんなペストの中にいるのだ」 (P375)


私が小説を書く理由はただ一つです。すなわち個人が持つ唯一無二の神聖さを描く事です。唯一無二なるものを満足させる事です。システムが私たちをめちゃくちゃにするのを防ぐ事です。だから私は生と愛について物語を書きます。人々を笑わせ、泣かせます。

I have only one purpose in writing novels,

that is to draw out the unique divinity of the individual.

To gratify uniqueness.

To keep the system from tangling us.

So - I write stories of life, love.

Make people laugh and cry.

「これはあなたのような人には理解できることではないかと思うのですがね、~略~ おそらく神にとって、人々が自分を信じてくれないほうがいいかもしれないんです。そうしてあらんかぎりの力で死と戦ったほうがいいんです、神が黙している天上の世界に目を向けたりしないで」 (P188)


私たちは皆人間であり、個人であり、壊れやすい卵です。壁を前にして、望みは失われます。高く、暗く、冷たすぎるのです。暖かみと力のために、私たちの存在を一つにして壁と戦わなくてはなりません。システムが私たちをコントロールするのを許してはいけません。私たちが何者であるか、決めさせてはいけません。システムを作り上げたのはは私たちですから。

We are all human beings, individuals, fragile eggs.

We have no hope against the wall:

it's too high, too dark, too cold.

To fight the wall, we must join our souls together for warmth, strength.

We must not let the system control us - create who we are.

It is we who created the system.

「このペストがあなたにとって果たしてどういうものになるか」「際限なく続く敗北です」 (P188)

「そして心の平和に到達するためにとるべき道について~略~何かはっきりした考えはあるか、と尋ねた。『あるね。共感ということだ』」 (P379)

「われわれは一緒に働いているんです。冒涜や祈祷を超えてわれわれを結びつける何者かのために。それだけが重要な点です」 (P373)


イスラエルの皆さん、私の本を読んでくれて感謝します。意義ある何かを共有できればと願う次第です。あなたが私がここにいる最大の理由なのです。

I am grateful to you, Israelis, for reading my books.

I hope we are sharing something meaningful.

You are the biggest reason why I am here.

「神さえも、今ではわれわれを引き離す事はできないんです」 (P324)

記事への反応 -
  • 追記: id:le-matin さん( http://d.hatena.ne.jp/le-matin/20090217/p1 )より抜粋である事を明記した方がいいと助言を頂きました。ありがとうございます。 これを受けて、明らかな間違いの修...

    • http://d.hatena.ne.jp/sho_ta/20090216/1234786976 の"unique divinity of the individual"に着想を得ました。 英文の引用は http://www.jpost.com/servlet/Satellite?cid=1233304788868&pagename=JPost%2FJPArticle%2FShowFull 和訳の引...

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