2009-02-17

村上春樹エルサレム賞ピーチまとめ

追記: id:le-matin さん( http://d.hatena.ne.jp/le-matin/20090217/p1 )より抜粋である事を明記した方がいいと助言を頂きました。ありがとうございます。

これを受けて、明らかな間違いの修正及び説明の追加、変更を加えさせて頂きました(2月17日 20:00)

共同通信エルサレムポストが一番網羅的ですが、どの記事も講演すべてを収めていないものと思われます。ご留意下さい。



共同通信

特記すべき点として、戦車ロケット弾白リン弾といった具体的な「得物」にふれています。他のニュースソースではまだ確認できていません。

http://www.chugoku-np.co.jp/NewsPack/CN2009021601000180_Detail.html/

http://www.sponichi.co.jp/society/flash/KFullFlash20090216041.html/

http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/090216/acd0902161022003-n1.htm/



テレビは聞き取れた部分だけです***

日テレ

http://www1.ntv.co.jp/news/wmtram/dw/ng.html?m_url=090216039&n_url=129212/

i chose to come here rather than stay away. rather i chose speak rather than nothing....

フジ

http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00149487.html/

i chose to see for myself rather than not to see. ... like novelist opposite....

TBS:

http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4063622.html/

whether this to create impression i supported one side in the conflict and that i endorsed the policy of a nation that chose to unleash its overwhelming military power...

(はたしてこれが紛争当事者の一方に付く印象を与えるのか、圧倒的な軍事力で苦しめる選択をした国家の政策を裏打ちするものになるのか・・・)

NHK:

http://www3.nhk.or.jp/news/t10014185071000.html/

I asked myself whether travelling to israel at a time like this and accepting a literary prize is a proper thing to do, they can not genuinly trust anything that they haven't seen on their own eyes or touched with their own hands...

Japan Today:

http://www.japantoday.com/category/features/view/haruki-murakami-wins-jerusalem-prize/

村上氏の発言のみ抜粋)

"sometimes takes on a life of its own and it begins to kill us and cause us to kill others coldly, efficiently and systematically."

"We are all fragile eggs faced with a solid wall called the system....To all appearances, we have no hope...the wall is too high and too strong...If we have any hope of victory at all, it will have to come from our utter uniqueness"

"Each of us possesses a tangible living soul. The system has no such thing. We must not allow the system to exploit us"

「時にはそれ自体が自らの生命を受け、私たちを殺し始め、私たちが他者を殺すよう冷酷に、効率的に、システマティックにけしかけます」

「私たちはシステムと呼ばれる堅固な壁を前にする壊れやすい卵です・・・・壁は高く、強すぎます・・・それでも望みを抱くのなら、勝利は私たちがそれぞれ唯一無二である事からやってこなければなりません」

「私たちそれぞれが形ある生きる存在です。システムにはそんな物はありません。システムが私たちを食い物にするのを許すわけにはいかないのです」

Gurdian(イギリス

賞金が1万ドルであること、親パレスチナグループより受賞を辞退するよう働きかけがあった点についてふれています。

http://www.guardian.co.uk/books/2009/feb/16/haruki-murakami-jerusalem-prize/

Ha'aretz(イスラエルヘブライ語新聞メイン英語と併売)

受賞理由と村上作品について。スピーチ内容については言及なし。

http://www.haaretz.com/hasen/spages/1064160.html/

エルサレムポストイスラエル、英字紙)

http://www.jpost.com/servlet/Satellite?cid=1233304788868&pagename=JPost%2FJPArticle%2FShowFull/

(以下記者自身の記述を含め、だいたい訳しています。"the lucid wisdoms in his novels tend to come from acquaintances of the protagonist"の訳については全く自信がありません)

イスラエルは卵じゃない」

わかりにくい? 日本ベストセラー作家である村上春樹から聞く事になる説明としてはこれが唯一のものだろう。まさしく村上スタイルであり、さらにどことなく曖昧である。

時差ボケ政治的論議、マスコミの群れに逆らって日曜に彼は受賞のためやってきた。

シモンペレス大統領エルサレム市長であるニル・バルカトを脇に従え、落ち着いた態度で彼は賞を受け取った。壇上で一人、フラッシュを浴びる事もなく彼は本題にかかった。

「ついにエルサレムに来ました。小説家として、嘘の紡ぎ手としてここにいます」

小説家だけが嘘つきなわけではないです。政治家も(大統領、失礼)外交官も嘘をつきます。しかし小説家とその他の人々を分け隔てるものがあります。私たち小説家は嘘つきの嫌疑で訴えられる事はありません。賞賛を受けるのです。嘘が大きければ、またより高い賞賛を受けることになります」

「私たちのつく嘘とその他の嘘の違いとはすなわち、私たちの嘘が真実をもたらすという点です。総体をもって、真実を把握するのは難しい事です。だから私たちは真実創作の領域に落とし込みます。しかしなによりも、私たちの中に潜む真実がどこにあるのか明らかにしなくてはなりません」

「私は今日真実を語ります。1年のうちに真実を語るのは数日しかありません。今日がその1日です」

彼の小説は超現実的かつ想像力にあふれたもので、しばしば突拍子もないところまで話が進む。彼の本を読むのはピカソの絵画を見るようなものだ。普通の状態から離れる事を必要とされ、村上世界では事物や出来事は彼固有のロジックに落ち着きどころを見いだす。

しかし彼の小説根底にはロジカルなカオスとはまったく対称的な個人がいる。非常に人間的で、自己に目覚めた慎ましやかな個人だ。すなわちその個人の内的格闘は我々のものと同じなのだ。

村上を受賞者に選んだ選考は速やかに満場一致のうちに終わった。普遍ヒューマニズムと現存する回答困難な問題との取り組みが(受賞理由として)引き合いに出された。しかし審査をめぐる論議はほとんど起こらなかったが、村上自身は受賞について複雑な心境だった。

「受賞の意志を打診されましたが、ガザでの戦闘の件があり、訪問を取りやめるよう警告がありました。私は自問しました。はたしてイスラエルを訪問するのが適切な事なのかと?一方の側を支援する事にならないか?」

「ちょっと考えを巡らしました。で、来ようと決めたわけです。大抵の小説家のように、言われたのとはきっちり反対の事をするのが好きです。それが小説家として、私の根底にあります。自分の目で見ず、自分の手で触れないものを小説家は信用しません。だから私は見る事にしました。なにも言わないよりはここでしゃべることにしました」

「ここに私が来て、言いたかった事があります」

すると村上は主要人物の仮面を脱ぎ捨て、端役へと回った(彼の小説では明確な啓示はしばしば主人公の奪還から立ち現れる)。発言は明快で、再考の余地はなかった。曖昧さのための時間はなかった。

「固く高い壁があり、卵が壁に打ち壊されるなら、壁がどんなに正しく卵がどんなに誤っていても私は卵の側に立ちます」

「どうしてなのか?私たちそれぞれは卵であり、壊れやすい卵にくるまれた唯一無二の存在だからです。私たちそれぞれは高い壁を前にしています。高い壁とはシステムです。それは通常では個人として受け入れがたいものを私たちに強います」

「私が小説を書く理由はただ一つです」続く彼の声音は控えめで、誠実な響きがある。

「すなわち個人が持つ唯一無二の神聖さを描く事です。唯一無二なるものを満足させる事です。システムが私たちをめちゃくちゃにするのを防ぐ事です。だから私は生と愛について物語を書きます。人々を笑わせ、泣かせます」

「私たちは皆人間であり、個人であり、壊れやすい卵です。壁を前にして、望みは失われます。高く、暗く、冷たすぎるのです。暖かみと力のために、私たちの存在を一つにして壁と戦わなくてはなりません。システムが私たちをコントロールするのを許してはいけません。私たちが何者であるか、決めさせてはいけません。システムを作り上げたのはは私たちですから」

村上は読者への感謝言葉で締めくくった。受賞のために人前に出る習慣のない人物としては、本当に特別な事だ。

イスラエルの皆さん、私の本を読んでくれて感謝します。意義ある何かを共有できればと願う次第です。あなたが私がここにいる最大の理由なのです」

  • http://d.hatena.ne.jp/sho_ta/20090216/1234786976 の"unique divinity of the individual"に着想を得ました。 英文の引用は http://www.jpost.com/servlet/Satellite?cid=1233304788868&pagename=JPost%2FJPArticle%2FShowFull 和訳の引...

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