春服の一つでも買おうと思って服屋に入ったんだ。
一人のおっさんが服を選んでいて、傍には小っちゃい女の子がいてキャッキャしている。
どの服にしようかおっさんは悩んでいるようで、何着も手にとっては吟味するようにじっと眺めていた。
そのとき奇麗な女性が近づいてきて、おっさんは彼女に気付くと手にしていたジャケットを身に着け、どうかな?と尋ねた。
いいんじゃない、と女性が笑って答え、おっさんは満足そうにジャケットを脱ぎ、カゴに入れるとレジの方へと向かう。
そのとき分かったんだ。
既婚男性は鏡代わりに妻を使う。
俺は良さそうなジャケットを手に取ると試着し、じっくりと鏡を見つめた。
これにしよう、と俺は決めた。
鏡は最後まで静かだった。