そこで、男は一計を案じました。
男は大通りに出てふらふらとしています。すると、通りがかった女に肩がぶつかりました。いえ、ぶつけたのです。
「おうおう、どこ見て歩いてんだ!」男はわめきたてます。
腕がないとはいえ、大道芸人。声も通れば見世物の作法も心得ておりますから、あたりにはたちまち、人だかりができました。
女も女で必死に言い返しますが、人さえ集まれば女に用はありません。肩がぶつかったことなど、どうでもよかったのです。
男は女を怒鳴りつけると、あとは無視してしまい、今度は集まった人々に芸を披露しはじめました。
たいした芸ではありませんが、なにしろ見る人の数が数ですから、おひねりなどもそれなりに飛んできます。
男はほくほく顔で、女は歯噛みするばかりなのでした。
「決して炎上に近づいてはいけないって、おじいさまが言ってたわ。」