海外旅行中に日本人とレストランで隣り合わせになることは珍しいことではない。できるだけ避けたいと思うのは、現地の言葉はもちろん英語がほとんどできないので、メニューを推察して相談したり、指差して注文する様子を見られるのが恥ずかしいというのが理由だ。
現地での食事を楽しむのに、言葉は重要ではあるが、かならずしも重要ではない。その結果食べられないものが出てきたり、思いがけない良品に出会えたりすることもあるし、悔し紛れに聞こえるかもしれないが、それも旅の楽しみの一つだ。だが、恥ずかしい気持ちが先に立って、挑戦したいものを口にできなかったりということがあるのはあまり楽しいことではない。
ある町の、日本で買ったガイドブックに載っているレストランで日本人のカップルと隣り合わせになった時も、まずその気まずさを感じた。
しかも、彼らは英語を使えるようで、私たちより先に席に着き、私たちより先に注文をした。追って、私たちも、なんとか注文をしたものの、頼んだビールは、彼らの前菜が出てきてもなお、出てこない。カップルの男性はおもむろに「旅行ですか」と話しかけてきた。「そうです、ようやく時差ぼけが解消したころです」と答えた。一方だけが質問をする会話は盛り上がるわけもなく、お互いのパートナーとの会話に戻った。私たちのビールはまだ出てこない。
こぼれきこえるはなしによれば、彼はパリの大学に来ていて、日本人が年間で10人程度しか合格しない大学にも合格した優秀な人間で、おそらくはそのことを十分に知っているだろう、パートナーに対して、それを説明していた。私のパートナーに言わせるとおそらくは「私達に聞かせたかったんだ(どうりでやたらと声が出かかったんだ!)」ということだったが、きいたところで、どうしようもない。私たちは、こないビールがいつ来るか、忙しそうに駆け回るウェイトレスのお姉さんを捕まえては自分たちなりのディナーを楽しんでいた。
そのうちに、彼は自分のパートナーにたいして旅行に行こうという話を始めた。彼曰く「日本人がやりたくでもできない自動車でヨーロッパを旅できるんだぜ」ということで、観光旅行中の私たちに羨ましがってほしかったのか、一生懸命自動車でヨーロッパをめぐる旅行にパートナーを誘い始めた。そして、そのあとは、自分の就職について話し始めた。入れてもらえそうな会社や、そこの社員の名前を挙げて、こんないい人たちと知り合えたのだから僕にはすごいチャンスがあるというようなことを話し始めた。まだ内定が出ているわけではないのだから、責任のないたられば話でしかないとはいえ、正直、品のない話でしかなかった。
パートナーの女性がトイレに行ったときに、彼がデザートの注文をしようとすると、ウェイトレスは、今日のお勧めとかかれた黒板を指差した。かれはパートナーがもどったら注文すると返事をした。余談だが、私たちのメインデッシュはまだ来ていない。前菜を食べ終えて1時間以上たっていた。
彼らがデザートを食べ終えたころ、ようやく私たちの注文が届いた。どうやら、私たちはそういう星の下にうまれたようで、海外だけでなく、日本でも注文をわすれられたり、間違えられたりということがよくあるので、まして旅した土地ののんびりした国民性を思えば大したことだとは思っていなかったし、旅の思い出の一つ程度にしか思っていなかったのだが、彼は、私たちがあつあつのメインにありついた横で「必要ないのわかってるけど、こんな気持ちいい(おそらくは、お勧めのデザートがおいしかったこと)サービスを受けたんだからチップを払ってもいいかい?」とパートナーに確認をした。パートナーは「いいんじゃない」とこたえた。かれはそのあと2回「こんな気持ちいサービスを受けられた僕たちはラッキーだね」と言った。「コミュニケーションができるっていうのは違うよね」とも言った。さすがに気がついた。それまでも彼の発言は私をだいぶいらつかせたが、机をひっくり返して「ほっとけ」と言ってやりたくなった。
ちなみに、私がいらっときた彼の発言NO1はおもむろに現地の言葉でパートナーに話しかけること。しかもその内容が「あそこのチョコレートショップさ、」という言葉であること。彼のパートナーがもっていたガイドブックは地球の歩き方(もちろん日本語)である。
おまけに、テレビでやっているワールドカップの試合で、現地の言葉で表現された国名がわからないねと話している私たちの会話に「その国は○○○です。」と唐突に割って入ってきたこと。これっぽっちも君には話していない。君の顔すらみていない。(赤の他人のよそのテーブルの会話に入るなら、せめて「少し聞こえてしまったのですが、」位言うべきだと私は思っている)
別に英語ができないままに海外旅行をするのが大変だと思ったことはないが、こんなに不愉快な思いするなら、もっとペラペラにしゃべれたらよかったとだけ思うのでした。きぃくやしいぃ