2007-10-27

あれは恋だったのか

彼は古文と化学が得意だった。頭も良く、真面目な生徒だった。(まあ結構トップ高だったため、そんなに派手な生徒はそもそもあまりいなかったのだが)野暮ったいめがねをかけてまるで頭の良いのびた君のようだった。服装も決してオシャレとは言えなかった。完全にオタクというわけでもないが、そういったものに片足突っ込んでいるのは確かだった。

有る委員会に入ったのがであったきっかけだった。

話したきっかけは麻雀だった。

父が麻雀が大好きだったため、幼少の頃から麻雀に馴染んできた私はひっそりと携帯ストラップに千点棒のそれをつけていたのだ。それを彼が見つけ、「麻雀好きなの?」と話しかけてきた。実は彼も麻雀が好きなのだが、私たちの親の世代ならともかく、今時大学生でも麻雀などあまりやらないくらいだ、高校生麻雀が好きなんて人はほとんどいなかった。ルールを把握してる人すら少ない。皆大抵、ドンジャラで止まっているのだ。

貴重な趣味仲間を発見し、彼は男子の中で一番喋る相手となった。

休み時間中、麻雀の本を見て、何切る問題なんかを一緒に解いたりしたこともあった。自分の好きな手なんかについても語ったりした。ちょっと重なってくるとついトイトイに強引に持っていってしまうとか、役牌が2枚あったら反射的に鳴いてしまうよねとか、チートイツに踏み切るタイミングをいつも逃すだとか、そうたいした話でもないが、楽しかった。

クラスは一度も同じにならなかったが、委員会は一年半一緒だった。よく授業後居残りで二人だけで作業をする事もあった。それでも特に変な雰囲気になることも(まあ学校なので当たり前だが)全くなく、全く健全に委員会の仕事を夜遅くまでし、勉強の事や部活の事を話し合ったり、時に麻雀の事を話し合ったりしていた。

テスト前は、共に図書館勉強したりもした。古文と化学は彼に教えてもらったり、私は物理数学を教えたりした。

本もお互い好きだった。普通の本から、マンガまで、オススメの本を紹介しあったり貸し借りしあったりした。

彼はプログラミングはまっているといい、私もちょっと教えてもらったりした。

メールテスト前になるとちょくちょくしていた。お互い絵文字も顔文字も余り使わないため、結構今思うと高校生にしてはお堅いメールだった。内容も、有機化学いまいち整理できてないよーとか歴史覚える事多すぎ、とかそんなもんだった。

そんな事をしていると、友達がある時「○○君の事好きなの?」と聞いてきた。

「正直よくわからない。いい人だし尊敬してるけど別にそう言う意味で好きなわけじゃないと思う」といったものの

周りは「でも趣味も合ってるし、いい人だし、お似合いだと思うけど。付き合えばいいのに」と言ってきた。

そんな事を言われてるうちに自分でも本当は好きなんだろうか?という思いが芽生えてきた。

の反面、心の底では「いややっぱり、冷静に考えると別に恋ってわけじゃないんだろう」とやけに冷静な思いが常にあった。

そもそも、私が好きだったところで、彼はどうなのかわからないし、大体彼には彼女がいるのかもわからないのだ。

そして結局そのまま友人関係は続いていたのだが、文化祭終了後、ある噂を聞いた。

「A子が○○に告白したんだって」。

A子というのは頭もよく、人柄もよく、生徒会なんかにはいっていて、ほんわかした可愛い子だった。私にとっては、知り合い以上、友達未満、といった感じの子だったが、私は彼女が結構好きだったし尊敬していた。

「で、どうしたの?」「振られたらしいよ」

A子が振られた……

ショック、というほどでもないが、どこかガッカリする自分に気付いた。次の瞬間、なぜガッカリしたんだろう!?と自分でも戸惑い、じっくり「なぜか」を考えてみた。その結果、どうも私は「あのA子が振られたなら、私が告白したって振られるに決まっている」そう思ったから、ガッカリしたようだった。その結論に自分自身少しびっくりした。これではまるで彼の事が好きなようだ。

とりあえず私は彼が好きなのかもしれないという前提で、もし彼と付き合ったらキスできるのか?セックスできるのか?という事をシミュレーションし始めた。……微妙だった。別にしたいとは思わない。でも○○君ならもしかしたらいいかもしれない。という感じだった。しかし他の男子だったら絶対に嫌なところからすると、やっぱりこれは好きなんだろうか?しかし、別に彼にたいしてときめくわけでもドキドキするわけでもない。好きというより、単に私はもともとあんまり男子が好きじゃなくて、その中で彼は普通だというだけなんじゃないだろうかとも考えた。色々考えたが結論はでなかった。

どの道告白する気はあまりなかった。このままでいいと思っていたし、A子が断られたのなら私は断られるに決まっていると思っていたからだ。私は別に男子モテるわけでもなかったし、A子の方が断然可愛いのだ。一体なぜA子を断ったのか寧ろ疑問だった。

受験が近づいていた。

彼と私は志望校が別で、彼は関西方面の大学、私は東京大学を目指していた。

彼が目指している大学を知ったとき、そうか、このままだと4月になったら離れ離れになるんだなぁ、とふと思った。この関係も、多分、自然消滅するだろう。そう思うと寂しかった。

そんな時またもや噂を聞いた。A子が振られたのは、○○君に彼女がいるからだ、という噂である。

なんでも、友達によると、他校に後輩の可愛い彼女がいるのだという。

それを聞いてまた内心ガッカリした自分自身に戸惑った。やっぱり好きなのだろうか。分からない。

しかし好きだったら、こんな「ガッカリ」程度じゃなく、もっと泣くほど嫌なんじゃないだろうか?正直そこまででもなかったため、ますます自分は彼を好きなのかどうなのかわからなくなっていった。

どうせ自然消滅するならと、メールで一度聞いてみた。

「そういえば、○○君って彼女とかいるの?」と。

「えー!?いや、いないよ(笑)モテないし(照れ笑いのような絵文字)」

「あれっ、でも、○○校に後輩の彼女がいるって聞いたけど」

「え?!知らないよー。××と勘違いしてるんじゃないかな。あいつはしょっちゅう彼女変えてるから」

……。いないじゃんか。噂は当てにならない。

しかしA子の噂はガチだった。何せA子本人からも聞いていたのだから。

複雑な思いだった。正直、卒業する前に一度玉砕覚悟で告白してみようかとも思った。どうせ駄目元、これもいい経験なんじゃないかと。しかしそんな勇気はなく……とりあえず受験に専念した。

卒業前、バレンタインに、イーピンをかたどったチョコを作って彼に渡した。告白は特にしなかった。そのつもりで作ったわけでもなかった。彼は結構驚いていたが、チョコの中身を見てかなりウケてくれたため、私はそれで満足だった。

そしてそのまま結局何事もなくあっけなく私達は卒業して、大学に入学した。

案の定、5月くらいまではちらほらメールもしていたけれど、夏に入る前に自然になくなった。

私も大学で新しい人間関係を作るため忙しかったし、その時はもうほとんど彼の事を忘れていた。

けれど今、昔使っていた千点棒のストラップを見つけて、ふっとその時の思い出がよぎった。多分彼はもう彼女の一人もいるだろう。優しくて真面目で面白くて賢い人だ。きっと大学でも上手くやっているに違いない。麻雀サークルを作るともいっていた。きっと彼なら本当にやっているだろう。私もまだまだ麻雀は続けている。

あれは恋だったのだろうか。未だにわからない。あれを恋とカウントしないなら、私は生まれてこのかた一度も恋をしたことがない事になる。これからもしないのだろうか。なんとなく、彼のような人には二度と出会えない気がして、少しだけ寂しい気持ちになった。

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