若白髪。極端な猫背。上の前歯が一本もないという、強烈なビジュアル。
仕事はミスばかりで、昼間のシフトから外されて、今は夜勤のみ。会社のパソコンで6時間くらい延々とフリーセルをしている。
現在43歳。俺も面識があるんだけど、完全に人間のクズだった。
とにかく虚言癖がひどい。
15歳のときにできた子供がいて、自分が経営してるキャバクラの店長をやらせてるとか、ヘリコプターの免許を持ってて、神戸の大震災が起きたときは向こうにいる親戚に呼び出されて飛んでいったとか、かつて取引先のN社のシステムの開発に参加したとか(年齢が合わないんですけど……)。
平然として、荒唐無稽な嘘をつく。
このMという男は、A社という大手派遣会社に所属していると名乗り、孫請けの派遣社員に対して、
「オメー、○○の仕事やっとけ」
「この世界にいられなくさせてやんぞ」
などと威張り散らしていたんだけど、ある日、A社から来た社員によって、驚愕の事実が明かされる。
「へえ、A社の方ですか。じゃあ、Mさんの後輩に当たるわけですね」
「いや? MさんはX社ですけど」
「ええー!?」
なんと、Mは他の派遣社員と同じく、孫請けであることが判明。
「A社のルールは私が作ってますから」
とか、
「私からA社の営業の人間に伝えておきますよ」
とか言ってたのは全部ハッタリ、もしくは妄想だった。
孫請けの派遣社員は、形式上A社に属しているという形で取引先と契約する上に、それまでA社から派遣されてる人が誰もいなかったから、現場にいる全員が騙されていた。
あとから振り返れば、こいつは各方面に迷惑を振りまいていた。
9月末、契約先のN社から、Mを含めたダメ派遣を切りたいという話が出たとき、Mは孫請けの派遣会社の営業に次々に電話を掛けた。
「A社の者ですけど、いつもお世話になっております。ところでN社さんが今月末で派遣を切るという話が出てますけど、お聞きになってますか?」
電話の内容は推定。あまり間違ってはいないと思う。
孫請けのうち何社かは、Mの言葉を真に受けて、社員を引き上げさせた。
人が足りなくなったおかげでMは延命。今も残っている。
A社ではないことがバレて以来、少し小さくなって暮らしているが、基本的な態度は変わらず。
最近、ゴホゴホと咳をしているのを知人が見止めて、何げなく声をかけた。
「大変ですね」
「そうなんですよ。今も病院を抜け出して会社に来てるんですよ」
「え? けっこう重病なんですか」
「そうなんです。骨髄液を注射しなきゃならないから」
「はあ……、何の病気なんですか」
「骨髄性白血病です」
なんでこんな嘘がつけるんだろう。
ホントに病気で苦しんでる人に失礼だよね。
周りは唖然。
妄想性人格障害なのかな? こういう人が、これまで社会人として生きて来れたこと自体が奇跡だと思う。
俺がその職場にいたらどうしただろう。
まあ、どうにかして追放する方向に持って行くだろうなあ。