2022-11-29

そのとき俺は夏に見た蝉と蟻を思い出した。

大きな案件を引き受け、気分よく本社に帰って話すと、浮かない顔を見せる部下がいた。

そのとき俺は夏に見た蝉と蟻を思い出した。

死んだ蝉と、そこに群がる蟻。

すぐに運ぶのかと思えば、蟻はその場でたむろするばかりでなかなか運ぼうとしない。

どうしてだろうと眺めると、一部の蟻同士で揉めているように見えた。

不思議に思えたが、しかしその後ハッとした。

蟻にとっては蝉はご馳走だろう。

あれほど大きな食物だ。食べ物には当分困らないはずだ。

だが運ぶのには相当の労力が必要になるだろう。

そこに嫌気を示す。

蟻にはおそらく、二種類の蟻がいるのだ。

大きなご馳走を得ることに喜ぶ蟻。

大物を運ぶ労を想像して嫌気を示す蟻。

それは、人間も同じだ。

大きな物を得るために、その分頑張ろうと奮起する人間

大きな物を得るための、その労力を厭う人間

俺は部下の態度を見て、それを思い出した。

俺は夏の蝉と蟻を見て、それを思い出した。

そして人間は、厭うことは良くないと思うのだ。

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