大きな案件を引き受け、気分よく本社に帰って話すと、浮かない顔を見せる部下がいた。
そのとき俺は夏に見た蝉と蟻を思い出した。
死んだ蝉と、そこに群がる蟻。
すぐに運ぶのかと思えば、蟻はその場でたむろするばかりでなかなか運ぼうとしない。
どうしてだろうと眺めると、一部の蟻同士で揉めているように見えた。
蟻にとっては蝉はご馳走だろう。
あれほど大きな食物だ。食べ物には当分困らないはずだ。
だが運ぶのには相当の労力が必要になるだろう。
そこに嫌気を示す。
蟻にはおそらく、二種類の蟻がいるのだ。
大きなご馳走を得ることに喜ぶ蟻。
大物を運ぶ労を想像して嫌気を示す蟻。
それは、人間も同じだ。
大きな物を得るために、その分頑張ろうと奮起する人間。
大きな物を得るための、その労力を厭う人間。
俺は部下の態度を見て、それを思い出した。
俺は夏の蝉と蟻を見て、それを思い出した。
そして人間は、厭うことは良くないと思うのだ。