一夜にして幾千もの星を手にした増田は、星の入った風呂敷包みを担いで夜闇の奥深くへ駆けていった。血走った目は暗がりでもぎらぎらと輝き、口からは怪鳥のような鳴き声がもれ続けていた。
村の衆は誰も増田を止めることが出来なかった。あれは娘のため命を削って働いていた男ではなかった。星の欲に飲まれ、狂気に憑かれ、人の道を踏み外した外道である。幽鬼となったのである。
古老は言った。唯一、出来ることがあるとすれば、それは増田のことを忘れることである、と。
村の衆は増田が消えた闇をじっと見つめていた。それは夜の深淵へと続いている。そして、深淵の先は虚無へと通じると伝えられる。
誰も闇の向こう側を知らない。中へ飛び込まなければ覗くことが出来ない。人間が知ることは出来ないのである。
増田はどうなるのだろう。
誰かがつぶやいた。
返事はない。
増田が帰ることは二度となかった。