2015-06-19

 一夜にして幾千もの星を手にした増田は、星の入った風呂敷包みを担いで夜闇の奥深くへ駆けていった。血走った目は暗がりでもぎらぎらと輝き、口からは怪鳥のような鳴き声がもれ続けていた。

 村の衆は誰も増田を止めることが出来なかった。あれは娘のため命を削って働いていた男ではなかった。星の欲に飲まれ狂気に憑かれ、人の道を踏み外した外道である。幽鬼となったのである

 古老は言った。唯一、出来ることがあるとすれば、それは増田のことを忘れることである、と。

 村の衆は増田が消えた闇をじっと見つめていた。それは夜の深淵へと続いている。そして、深淵の先は虚無へと通じると伝えられる。

 誰も闇の向こう側を知らない。中へ飛び込まなければ覗くことが出来ない。人間が知ることは出来ないのである

 増田はどうなるのだろう。

 誰かがつぶやいた。

 返事はない。

 夜の深い場所言葉が吸い込まれていった。

 増田が帰ることは二度となかった。

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