2013-12-16

かげろう

 僕が訪れたその場所には、たくさんの壊れた壁が立っていた

 僕が訪れたその場所には、見慣れた落書きの、かすれた跡が


 祭り囃子に誘われて

 夕闇の坂下

 駄菓子屋の前で、振袖の影が二つ


 提灯が闇を照らして

 今決めたように手を繋ぐ


 祭囃子の音は今も

 追い立てるように響いていた


 光が差した後の世界


 煤けた壁を、指でなぞる


 長い長い道の終わり

 微かな川の流れを聞く、土を均しただけの道


 同じ道を辿っても

 どうして辿り着けないのか


 あの日、二人はちゃんと出会えたのに

 どうしてそれは今、ちりぢりになっているのか


 影と手を握っている夢を見て


 ああ

 色褪せて

 いくのは

 記憶だけではなく


 あの町、もう見えぬ町

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