■かげろう
僕が訪れたその場所には、たくさんの壊れた壁が立っていた
僕が訪れたその場所には、見慣れた落書きの、かすれた跡が
祭り囃子に誘われて
夕闇の坂下り
駄菓子屋の前で、振袖の影が二つ
提灯が闇を照らして
今決めたように手を繋ぐ
祭囃子の音は今も
追い立てるように響いていた
光が差した後の世界で
煤けた壁を、指でなぞる
長い長い道の終わり
微かな川の流れを聞く、土を均しただけの道
同じ道を辿っても
どうして辿り着けないのか
あの日、二人はちゃんと出会えたのに
どうしてそれは今、ちりぢりになっているのか
影と手を握っている夢を見て
ああ
色褪せて
いくのは
記憶だけではなく
あの町、もう見えぬ町
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