2010-10-31

プロ野球マスコミよ、バラエティを見習え。

野球少年にとってプロ野球選手というのは神なのである。野球界には、たとえば「守護神」という言葉がある。「代打の神様」という言葉も。古くは、「神様、仏様、稲尾様」というのもあった。

今日日本シリーズの第1戦だった。ふとつけたテレビスポーツニュースで、ひどく悲しい場面を見た。

番組で、ロッテ成瀬メールを紹介していた。インタビュー収録ではなくメールの紹介という時点で本当にプロ野球まわりは不景気なのだなぁと感じたのだけれど、あろうことか、成瀬メール最後にこんな文章があった。

「(番組の司会だったくりぃむしちゅーの)上田さん、ホームランを打たれない方法を教えてください」

最悪だと思った。日本シリーズの第1戦に出てくるピッチャーということは、日本最強を争うチームのエースということだ。そのエースが、芸人風情に「ホームランを打たれない方法」を伝授してもらおうというのである。

私は大人だから、それが番組を盛り上げるためのひとつギミックであることは理解できる(それにしても面白くもなんともないが)。だが、野球少年たちはどうだろう。あれを見て、明日キャッチボールの練習をしようと思うだろうか。子どもはそのまま受け取るよ。「上田成瀬より野球うまいのか、へんなの」と、そう受け取るよ。

この国のスポーツマスコミは、いつからプロ野球選手尊敬しなくなったのだろう。スポーツの感動というやつを、そのまま伝えることをやめてしまったのだろう。試合イベントににぎやかしでタレントを呼ぶのはいい。だが、冗談でも言っていいことと悪いことがあるはずだ。

成瀬は、全国の野球少年の夢を背負ったエースとして、この依頼を断らなければならなかった。テレビスタッフの依頼に対して、激怒しなければならなかった。プロ野球選手として飯を食っている限り、その場所には、真剣に練習をして、真剣試合に臨んで、勝ち続けなければたどり着けないのだということを、明確に示すべきだと思う。

上田は、「とんでもない、冗談じゃない、あなたに教えることなどあるわけがない」と、真剣に否定しなければならなかったと思う。狼狽さえしなければならなかったと思う。スポーツマスコミとして飯を食っている限り、プロ野球選手価値を貶めるような言動や態度は、意識的に排除していかなければならないと思う。スポーツ死ねスポーツマスコミも死ぬ。それは上田自身の食い扶持を減らすことでもあるのだから。

テレビスポーツマスコミはもうダメになる寸前だ。今日、はっきりとそう思った。現場スポーツ尊敬を持っていないのだから、それを伝えられた視聴者スポーツ尊敬できるわけがない。何もかも、バラエティ侵食されて、成瀬がどれだけすごい訓練と技術を持っているのか、誰も理解できなくなってしまっている。

だけど思うんだ。もしスポーツマスコミ復興があるとすれば、そのヒントはきっと、テレビバラエティの中にあるんじゃないかと。

ここ10年、バラエティ番組字幕テロップに頼ってきた。「めちゃイケ」も「エンタ」も「ロンハー」も、面白いところを全部字幕で流す。視聴者にわかりやすさを提供し、より広い層にアピールする努力を重ねてきた。昨今のお笑いブームを牽引したのは、まちがいなくこの字幕テロップという工夫だったはずだ。

バラエティにはバラエティの、スポーツにはスポーツ面白さがある。だったらスポーツだって、その面白さをそのままわかりやすく伝える努力をすればいい。成瀬上田の軽薄なカラミなんかより、もっと面白いことが野球試合のなかで起こっていることは、現場だってわかってるはずだ。

各局のバラエティ班は、バラエティ面白さを伝えるために血の汗をかいて字幕テロップという武器を手に入れた。それにより、バラエティは隆盛した。現在テレビスポーツマスコミは、そのバラエティ班の努力によって知名度を得たタレント芸人おんぶにだっこで、本来、自分たちが伝えなければいけないスポーツの魅力を表現する努力を怠っている。

かつて、日本シリーズプロボクシングプロレス国民的関心事だった。それは、スポーツにしかない感動がそのまま伝えられていたからだ。スポーツマスコミが、「こいつらはすげえんだ」と言い続けていたからだ。今だって、オリンピックワールドカップになれば、スポーツマスコミ節度と敬意を取り戻すことができる。確かに野球の人気は下がっているだろう。だけど、せめてスポーツマスコミ現場だけでも、「プロ野球の日シリーズは神々の戦いなのだ」という主張を怠ってはいけない。建前でもいいから、それを怠ってほしくない。野球少年から、夢を奪ってほしくない。それは、夢を与える仕事や、夢を伝える仕事に就いた者たちの責務だと思う。

今日現場スタッフは、想像してみてほしい。ワールドカップのあの試合の直後に駒野くりぃむしちゅー上田に「PKを外さない方法を教えてください」と言ったら、どんなことが起こったか。

笑いたくて野球を見ている者はいない。野球にはみんな、別の感動を求めているはずだ。もう一度、自分たちの仕事が何を扱っているのか、見つめなおしてほしい。

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