ここ数日,マンモスラリPな被告人が保釈するのしないので,ワイドショーの話題が持ちきりです。
ですが,保釈ってなんでしょうか。正確に分かりますか。
いつ保釈が出来るのか,誰が保釈が出来るのか,保釈されるためには何が必要か。
今日は保釈について,捜査中の身柄拘束にも触れながらお話しします。
よく,何か悪いことをすると「捕まるぞ」「タイーホ」などと言ったりしますが,犯罪をすると即身柄拘束,というわけではありません。
捜査機関が容疑者(法的には被疑者といいます)を逮捕するのは,犯罪の嫌疑が相当にあった場合で,逮捕の必要があるときだけです。
逮捕の必要があるときというのは,具体的には,「逃亡のおそれがあること」と「罪証隠滅のおそれがあること」です。
たとえば,重罪を犯した被疑者の場合,重い刑罰が予想されますから,逃亡のおそれは高まります。
逃亡中の共犯者のいる事件であれば,共犯者と連絡を取って,罪証隠滅をする可能性が高まります。
逆に,身元がはっきりしていて定職もある人が,罰金刑相当の事件をしたとしても,逃亡のおそれはないから,逮捕の必要はないというわけです。
逮捕は,身柄拘束という人権侵害を伴うものなので,法律で厳しく時間が制限されています。
警察官が逮捕状に基づいて逮捕した場合,逮捕から48時間以内に検察官に送致しなければなりません。
もっとも実務では,逮捕状を執行するために警察署に「任意同行」したときから制限時間を起算しています。
これは,ゴツいポリスメン2人に挟まれてパトカーの後部座席に座らされるののどこが任意だ,という主張を踏まえてのものです。
逮捕されていなくても,警察官が捜査を遂げると,検察官に捜査書類が送付されます。
これを報道用語で「書類送検」といいます。逮捕されると「身柄送検」になるわけです(そんな用語ありませんが)。
身柄だろうが書類だろうが,被疑者を検察官に送ることを,ひっくるめて送致といっています。
ちなみに,逮捕するときには,手続として,弁解録取というものをしなければなりません。
これは,被疑者のこの段階での弁解を聴く手続です。
逮捕後の報道で,「容疑を認めている」「容疑を否認している」とあるのは,弁解録取の際の被疑者の主張な場合が多いです。
検察官は,警察から被疑者の身柄を受け取ったときには,勾留するか勾留しないかを24時間以内に決めなければなりません。
勾留というのは,被疑者を留置施設に留め置くことですが,起訴前勾留と起訴後勾留の2種類があります。
勾留をするかの判断要素は,住居不定,罪証隠滅のおそれ,逃亡のおそれの3つです。
住居不定は逃亡のおそれが非常に強い場合ですから,結局,勾留も,捜査に支障を来さないよう,罪証隠滅と逃亡を防止するために行われます。
もっとも,判断主体が検察官ですから,逮捕よりも厳密に判断されます。
勾留は10日間が原則ですが,20日間まで延長することが出来ます。
検察官は,この10日間ないし20日間に起訴しなければ,釈放しなければなりません。
逆に,起訴されると,原則として自動的に起訴前勾留が起訴後勾留に引き継がれます。
起訴後勾留は,裁判への出頭確保と,罪証隠滅のおそれを防止するためになされます。
ところで,逮捕・勾留されて起訴されると,最長で23日間の身柄拘束をされていることになります。
ここまで来ると,心身に異常を来す者も現れます(拘禁反応といいます)。
そして,起訴されてからの捜査は基本的には許されないので,罪証隠滅のおそれは少し弱まっています。
この保釈保証金は,逃亡すると没取(没収と紛らわしいので,「ぼっとり」と読みます。),すなわちチャラッチャラッチャーンされます。
このことによって心理的に圧力をかけ,逃亡のおそれを防止するという制度です。
保釈にはいくつか種類があります。
権利保釈は,重罪・罪証隠滅のおそれが強い場合でなければ,当然に認められるという保釈です。
裁量保釈は,権利保釈が認められない場合でも,適当と認めるときに裁判所が保釈するものです。
義務的保釈は,勾留が長引いたときになされます(が,あまり認められていません)
裁判官(所)は,どの保釈に当たるかを意識せず,許可を出すので,請求者は,
逃亡と罪証隠滅のおそれを判断し,これに,勾留を続けることのデメリットなど主張できることはなんでも主張すべきことになります。
請求権者は,被告人,弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族,兄弟姉妹です。
これらの者が,独立して保釈請求できます。究極的には,被告人の意思に反しても出来ます。
もっとも,被告人が望まない場合に裁判所が保釈を許可するとは考えにくいですが。
数日前は,本人は,保釈をよしとしないと報道されていましたが,ここに来て,保釈して欲しいと言い出したと報道されています。
報道でもあったように,薬物犯罪の場合,勾留中おとなしくして,薬物を体から抜くべきだ,という議論があります。
現場の裁判官も言っていますし,身柄を一刻も早く解放すべき弁護人ですらそう言ってのける先生もいます。
確かにその方が情状はよくなり,執行猶予付き判決の可能性も上がると言えますが,
では,本件で保釈が許可されるか,弁護人が主張しそうなあたりを拾ってみましょう。
まず,逃亡のおそれですが,確かに彼女は逮捕前に逃亡していました。
しかし,保釈においては,保釈保証金で逃亡のおそれをカバーするので,よほどでなければ問題ありません。
覚せい剤の所持・使用は,10年以下の懲役にあたる罪ですが,初犯(ですよね?)であることもあり,まず執行猶予が認められる事案です。なので,ここからは逃げた方が損をします。
したがって,逃亡のおそれは保釈を却下するほどではないと思われます。
次に,罪証隠滅のおそれですが,これも逮捕前にやっていたわけです。
しかし,こと薬物犯罪においては,起訴前に捜査は全て終わっているのが圧倒的大多数です。
薬物犯罪は,そもそも被害者がいませんから,被害者を脅して証言を変更させる,とかがないからです。
尿検査と鑑定が終わっていれば,他にはあまり立証することもありませんし。
共犯者(?)である夫も,罪を認めています。
なので,罪証隠滅するおそれの,そもそも罪証が存在しないと考えられます。
そして,その他の事情です。
幼い子供がいること,大きく報道され,事務所を解雇されるなど,犯罪以上の社会的制裁を受けたこと,現在では罪を認めて反省していることなどが有利に働くでしょう。
他にも適切な監督者がいれば,大きく有利になります。