2009-07-31

エンドレスエイトは終わらない

――やられた。これは何かの間違いだと信じたかった。

端的にいってしまえば、涼宮ハルヒの憂鬱の一エピソードでしかなかった「エンドレスエイト」が、日曜夕方6時半から放映されている。エンドレスエイトは既にテレビ放送という媒体においてはほぼ“独占"といってよいほどの勢いをみせていた。初めはテレビ埼玉の木曜25:30から30分間の枠だけであったが、次第に1時間、2時間と広まり、月、火、水、金と平日深夜のテレビ埼玉は全てがエンドレスエイトになった。

「ついにサザエさんさえやられたか……」

かつては俺と同じく、ハルヒ厨であった友人がつぶやいた。エンドレスエイトの躍進はそこで止まらなかった。U局を支配していったのだ。まずテレビ埼玉からだった。22:00以降のテレビ埼玉は平日休日問わず、すべてエンドレスエイトになった。次に、東京MX千葉テレビ。この2局は最初30分枠としてしか放映してなかったが、テレビ埼玉と同じように次第に侵略されていった。そしてテレビ埼玉エンドレスエンドレスエイト」放映という頃には、京アニはキー局にまでその手を広げた。

サザエさん……サザ……ワカメ……パンチラ……」

意外なことに、初めに崩れたのはNHKだった。はじめは朝のニュースに挿入された1フレームでしかなかった。まるでサブリミナルのように挿入された1フレーム。30分の1秒。それが4日続いた。毎朝。毎朝。5日後、それは木曜日だった。木曜25:30、NHKエンドレスエイトの放映が始まった。その2日後からNHKで放映される番組はすべてエンドレスエイトに変わった。エンドレスエイト地上波放送ではじめて放映されてから、ほぼ1年がたっていた。

長門はもう俺の嫁じゃない……昔のつつましい長門に戻ってくれ……」

俺と同じく、かつてはハルヒ厨だった友人がつぶやく。そうだ、俺たちもかつてはハルヒを愛していた。エンドレスエイトが始まるまでは。何も俺たちに限った話ではなくてアニメを愛していたオタクたち、特にハルヒオタクたちは共有の思いを抱いているだろう。NHKが倒れてからは早かった。日本テレビTBSNHK教育フジテレビテレビ朝日……テレビ番組は全てエンドレスエイトにすげ替えられた。NHKが倒れてから1週間と経っていなかった。しかし、エンドレスエイトと拮抗するただ一つのテレビ局があった……テレビ東京だ。

ワカメおぱんつが、小学生のおんなのこのおぱんつ……おぱ……おっぱい……おぱんつ

テレビ東京は何が起きてもアニメを放映している。他局は緊急放送流しているのにテレビ東京だけは、なんて状況も数多く見たと思う。テレ東は期待を裏切らなかった。もちろんテレビ東京だってノーダメージではない。ほとんど多くの枠がエンドレスエイトに乗っ取られた。しかし、アニメ枠だけは粘った。粘りに粘った。アニメ以外の番組はなくなった。アニメ番組も減った。だが、粘った。戦った。すると呼応するようにフジテレビの、サザエさんが復活した。ちびまるこちゃんが復活した。ドラえもんが、クレヨンしんちゃんが復活した……。そして数多のテレビアニメがその息吹を吹き返した。テレビ東京奇跡を起こしたのだ。

だが奇跡は長く続かなかった。エンドレスエイトのとってきた次の戦法は、「劇場版」だった。エンドレスエイト劇場版三部作。上映されると同時に、アニメは一息にかき消された。三部作全てが上映された後、残ったのはサザエさんだけだった。

パンチラ……みれな……おぱんつ……みたい、ぱんつぱんつ」

さめざめと泣く友人の気持ちは分かる。もはや二次元パンティーを眺める機会など無くなってしまったのだろうなという、確信にも似た思い。最後の牙城、サザエさんさえも崩されたか。俺はまさしく絶望した。そして同時に友人の異変にも気づいた。

「ぱんつ! ぱんつ! ぱんつ!」

友人はロリコンでもないし、常日ごろから「パンツを隠さないようなつつしみの無い女は嫌いだ」などとつぶやく変人だった。その彼が下着にこれほど執着するだなんて――。どうか、している。

おぱんつうう!!!」

友人が俺の両腕を異常に強い力でつかむ。指先から赤黒く染まっていく。まずい。尋常じゃない……。エンドレスエイトは友人の善心を奪い、狂わせている――かまれた。首筋。痛みに苦悶の叫びがもれる。俺は、死ぬのか。

――バーン

「うっ!」

銃声に友人が倒れる。

大丈夫かい、君!」

「た、助かりました、あなたは?」

「私はテレビ東京アニメ部門のものだ。これ以上エンドレスエイトをのさぼらせるわけにはいかない」

「……というと?」

「われわれは京都へと向かい、京アニ本部を叩く!」

「!! 今の京都はあまりに危険では!」

「だが、やるしかないのだ。それにわれわれには、ヤマカン様がついてる」

尊師ヤマカン様……京都アニメーションに対抗できる数少ない人物ではありますが」

パヤオ庵野冨野らがやられた以上、奴らに拮抗できる材料はあまりに少ない。だが、やるならサザエさん攻略で弱っている今だ」

「それでも勝てる見込みは多くはないでしょう……?」

「ああ。だがこれを逃せば、一生訪れないだろう。君、いい目をしてるな。一緒にくるかい?」

「ぜひ。」

そしてこの日、僕は魔都京都へと旅立った。2018年、僕らの戦いはまだ終わっていない。

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