やっている事は同じなのだが、天国だと、税金を納めることが地獄の苦痛に等しいと主張している事になって世間体が悪いという事で、港や避難所を表すhavenという発音が同じ単語を持ってきて、納税する時期をずらしたり、相手を変える事で避難すると言い換えている。
海外投資による租税回避が可能になるのは、二重課税を避ける為であった。国家の徴税権は国境内に限定されており、多国間取り引きにおいては、利益の出ている側と損失の出ている側とが発生した場合、損失の出ている側の国家は税を取れず、利益の出ている側だけしか税を取れないという状態になる。
海外投資による租税回避は、これを意図的に発生させ、利益を税率が0や極端に低い他国に設置した企業に集約する行為である。
税制に矛盾があったり、使い勝手が悪かったりする場合、制度を改善させるというのが本筋であるが、その改善がどう考えても私利私欲の為でしかない場合には、私利私欲が通る場所に企業を作って、そこへお金を通す事で、税制に関する問題を解決してしまおうという考え方が出てくるのは、何ら不思議な事ではない。
金儲けだけが目的となってしまった企業にとって、社会との共存や人民の利便に奉仕するといった理念は建前でしかないのである。
企業が金儲けだけが目的となってしまうには、その出資者・株主の構成が、偏るという状況が、基本的には発生していると見て間違いない。多額の資金を運用しなければならなくなったファンドが、より効率の良い資金の増殖方法を作り出す必要に駆られ、経済オンチの議員を騙してグローバリゼーションを実現させるといった手段が、最近では耳に新しい。
ジャパンバッシングを実現して世界中に工場をばら撒く、その為の投資は基軸通貨である米ドルによって行われるし、アメリカ企業が自由貿易だけでなく工業生産においても世界を牛耳る。アメリカの金融界は巨大な富を実現できるし、議員の隠し資産を運用するファンドの運用成績も向上するという目論見は、基軸通貨の地位が揺らぐ事によって崩壊したのであった。
海外投資による租税回避行為を実質的に奨励していた法制を転換し、課税を強化するという話は、後進国や中進国、反米国や基軸通貨を狙う野心国に生産設備と技術をばら撒いたグローバリゼーションの否定とも言える。
あからさまに否定する事は、今のアメリカの地位では難しいので、海外投資の優遇を廃止して、国内投資を勧めるという穏便な表現を行うしかできないのである。
腐敗債券やCDSのような博打の負け分を、税金で保証して連鎖破綻を防いだコストの支払いの為に、課税を強化しなければならないという懐事情もある。もっとも、企業の帳簿はとっくに赤字であり、法人税の税率が上昇しても、当面は課税が発生するような状況ではないし、投資をしても利益を発生させられる状況ではない事から、金持ちに対する課税が強化されても、お金を動かさずに寝かせておくだけとなる。
雇われ取締役が高率の所得税をかけられて納税している姿に同情する意見が出てくるまでは、庶民の不満は納まらないであろう。
お金は、動かさなければ課税の対象にならない。租税回避地に飛ばした利益に対する課税は、そのお金が、再投資されたり、本国に回帰した時に発生するので、お金を動かした方が利益になる時期がくるまで、税率がどれほど高かろうが、実際には関係が無い。税率が高いことが世間に対するガス抜きになるならば、その効果を只で使える方に価値がある。お金を動かす事が利益になる頃には、また税率を引き下げれば良いのである。
本当のお金持ちは、時期を選ぶ事の価値を理解している。資金を動かすにしても、世論操作をやるにしても、政治的な圧力をかけて税率を引き下げさせるにしても、最適の時期がある事を理解しているから、お金持ちなのである。