先日、知り合いのお父様の通夜にいってきた。
喪主である知り合いのお兄さんは挨拶の途中で何度も言葉に詰まっていた。
その横で、お母様はずっとすすり泣いていた。
当の知り合い本人も、帰り際に挨拶した時、目を真っ赤にしていた。
これは当たり前の光景なんだろう。
そして俺は軽い自己嫌悪に陥った。
親父は会社を潰してから、昼間からよく酒を飲むようになっていた。
友達も無く、趣味も無く、一人で部屋にこもって酒を飲んでカネの計算ばかりしていた。
そうして酔っ払って家族に迷惑をかけた。
そんな親父を見てああはなりたくないものだとずっと思っていた。
やがて少し歳をとり、家を出て働くようになってから、そんな親父を許せるようになった。
俺も大人だし、たとえ自分の親に対してでも、寛大に、大人な対応をすべきなんだと思った。
そんな親父は俺を「一番優しい息子」だと言っていた。
俺は親父を上から見ていた。
そして、自分は親父と違う、俺は普通で、真っ当な人間なんだからと思っていたのだ。
そんな親父がある日突然死んだ。
義姉から朝早く電話があった。
義姉は電話の向こうで嗚咽していた。
葬式は本当に忙しい。
慌しく忌引き休暇は過ぎていった。
そして俺は自分のアパートに戻ってきた。
その時ふと、俺は実家に戻った最初の日の夜のことを思い出した。
親父が死んだと聞いて実家に帰ったまさにその日の夜、俺は兄弟とビールを飲みながらゲームをしていた。
それは、俺が帰省するたびにする恒例のことだった。
俺(と兄弟)は、親父が死んだと聞かされた夜に、いつもの帰省の時と変わらない夜を楽しく過ごしていた。
普通じゃない。
そうじゃなくても、普通ならしめやかな夜を過ごすのではないだろうか。
もちろん泣くかもしれない。
だが俺はこの一週間、泣かなかった。
それどころか、親父を想うことも無かったことに気がついた。
俺に電話をかけてきた義姉は泣いていた。
数少ない弔問客は、みんな泣きながら俺に慰めの言葉をかけていった。
なのに息子である俺は、特に何も想っていなかった。
久しぶりに再開した兄弟との再開を楽しんでいたのだ。
俺は自分が、自分こそは、普通で、真っ当な人間なんだと思っていた。とんでもない。
そして激しい自己嫌悪に陥った。
「親父さん亡くなって落ち込んでいるからさ。」と上司は言った。ああ、とんでもない。
俺は自分のために落ち込んでいたのだ。
俺は親父の死を想うことも出来ない人間なんだと自己嫌悪しながらもなお、親父のことなんか毛ほども考えてもいなかったのだ。
自分のことしか考えていなかったのだ。
ひどいもんだと思った。
それ以来、親を想って泣く人を見ると、軽い自己嫌悪に陥る。
そのたびに俺は、自分は普通じゃないんだからと、自分を慰めている。
こればっかりは、もうどうにもならないんだよと、自分に言い聞かせている。
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