2007-03-17

「あづい…」

今年は馬鹿みたいに暑かった。地球太陽の距離が近づいたんじゃないかってくらいに暑く、蝉も暑さが嬉しいのか、ここぞとばかりに鳴きまくり、その声が止むことはなかった。止むことのないその声が頭の中で鳴り響き、余計に暑さは増して、ますます太陽が近づいた。このままじゃ北極の氷が溶けるどころか、海が蒸発してしまうのではないだろうか。そんな具合にあたしが近づく太陽地球を憂いているっていうのに、それなのにこいつは―えみは―

「そうね、暑いわね。」

どうしてこんなに涼しい顔をしているのだろうか。

「あーづーい!」

「さっき聞いたわよ。だから言ったじゃない。暑いわねって。」

「全然暑そうじゃないじゃないか!」

「そう?これのおかげかしら。」

小さい口から紅く可愛らしい舌を出す。その上には少し溶けた氷が乗っていた。えみも初めのうちはかき氷にして、氷を削って食べていたのだが、元々無精者なえみのこと。次第に削るのをやめ、氷とシロップを直接口に放るようになり、最近では氷だけを食べるようになっていた。

「そんなのが効くのかよ。」

「あら、結構効くのよ。」

「本当かよ。大体氷だけじゃ味がないだろ。」

「そんなことないわよ。」

「はいはい。」

「信じないの?じゃあ―」

「え―」

顔を上げようとしたがそれは叶わなかった。顔を上げる前に唇を塞がれたから。あたしが驚き、途惑っていると、えみが舌でツンツンとノックしてきた。その動きに、唇を少し開けると、いつものように舌が入ってきた。ただ、いつもと違ったのは、舌がひやりと冷たかったのと、さっき見た氷が一緒に入ってきたこと。その冷たさに気持ちが落ち着くのを感じていると、またえみの舌がノックしてくる。氷を寄越せと言いたいようだ。仕方なくさっきより溶けた氷を舌に乗せてえみの舌へと送る。しかし、一度冷たさを味わった舌は涼を求めたがり、今度はあたしが寄越せと舌でノックする。そんなやり取りを何度繰り返しただろう。不思議と蝉の声は聞こえなかった。それどころか、何も見えなかったし、何も聞こえなかった。そこにはあたしとえみと氷しかなかった。そうして溶けかけた氷が溶けきるまで、あたしたちは、二人だけの世界で、交換し続けた。

「どうだった?」

えみはいつもの笑顔で聞いてくる。返答はすぐに思い浮かんだが、それをこれから言うことを考えると、とてもえみの目を見れそうになかった。けど、他には何一つ思い浮かばなかったし、それしかないと直感で思ってしまったから、やはり言うしかないのだろう。そしてあたしはえみの目から少し下へと目線を逸らし、多分えみの舌より紅くなってるだろう、あたしの顔を隠すように、ぽつりと言った。

「えみの味がした…」

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