ネットだと散々ネタ扱いされているけれども、新條まゆという作家は侮れない。読者のニーズや流行を一歩も二歩も早く察知する探究心と、サービス精神は赤松健クラスじゃないかと思う。そして思春期女子を問答無用で黙らせる力技は並じゃない。強引男によるエロという様式だけ真似た「まゆたんチルドレン」とは格が違う。彼女の作品を俺たちが理解できないのは当然だ。新條まゆは特定の読者層を極めて正確に狙い撃ちしているのだ。一般女子が「ToLOVEる」を読んでも全く面白くないようなもんだ。
「バカでも描けるまんが教室」という新條まゆの技術書というか自叙伝があるが、これを読むと彼女がいかに自分の長所と短所を正確に把握し、「それまでの少コミにないジャンル」を開拓したかが分かる。最初からエロだったわけではないのだ。新條まゆははじめから「それまでの少コミにないジャンル」を描かなくてはいけない、と言っている。新條まゆ作品は雑誌にとって異端でなくてはならない存在だったのだ。
ところが、新條まゆの作り出した新ジャンルには、たくさんの「まゆたんチルドレン」がむらがった。とにかく強引男、そしてエロであればいいというような作品が増え、従来の少コミ作家が肩身の狭い思いをするようになってしまった。結果、新條まゆは少コミが性コミ化した戦犯扱いとなってしまったのだが、この場合、本当の戦犯は編集部だろう。
一方、雑誌がそんなことになってしまったのをよそに、異端でいたい新條まゆ本人は、(少コミにしては)ほとんどエロのない男子校の姫×女子校の王子様のラブコメなんて描きはじめてしまう。しかも心底楽しそうに。エロ鬼畜セレブ男子×没個性一般女子を描かせたかった小学館は相当焦ったと思う。エロ少女漫画の旗頭がそれでは…といったところだろう。そのあたりのいざこざが小学館との決別につながったんじゃないかと俺は勝手に想像しているんだが。
新條まゆは自らの手でムーブメントを引き寄せることの出来る作家だ。そして、世間が追いついたころにはすでに次の段階にいる。トンデモ台詞やオモシロポーズに騙されてはいけない。彼女の真価は既にそんなところには存在しない。新條まゆは、天然と計算が絶妙にミックスされたニュータイプなのだから。
このタイミングで書かれると作品よりも本人を評価しているように思えてならない。 作品は知らんが、筆者はこの件で好きになったけどな。