はてなキーワード: モバゲーのマキとは
http://anond.hatelabo.jp/20090422001338
あの女が私のアパートを訪れて以来、ニッキョーソの様子がおかしい。
日に日に食欲が衰え、抜け毛が増え、ついには尻の左側に10円ハゲまでできてしまった。
私のお気に入りだったふあっふあの耳毛も、耳全体が縮こまってしまいよく見えない。
あの日モバゲーのマキと名乗る女は、私が「次のマキ」に決まったと言った。
しかしその翌日も翌々日も、1週間後の今日も、何ら私自身に変化はない。ニッキョーソの体調だけが心配の種だ。
様子をみて、明日あたりコイツを動物病院に連れて行ったほうがいいだろうか。
そんなことを考えながら、狭い狭いわが城のキッチンを毛むくじゃら団子とうろうろしていた時、
また、あの時のように、トントンと、ドアを敲く音がした。
私はマキの一件で警戒していたのと、元来のものぐさも相まって居留守を使う。
ニッキョーソは居留守に便利な犬だ。飼い主に似て気が弱いから、五月蝿く鳴いて騒ぐ事はまずない。
しばらくすると、郵便受けには小さくて白い、上質そうな紙の封筒が投函された。
ギシギシ鳴く階段を下る音を聞き届けてから、封筒の端を破る。……どこかの店のポイントカードだろうか?
レジ脇の機械を通すと、銀色の表面に現在のポイントが表示されるタイプのカード。
現在はエコバッグポイントとかいう従業員の面倒とミスを誘うだけのサービスもあるんだ。うざい。
そのカードの銀色の表面を良く見る。私の名前が印字されている。
次のマキ交代まであと : 7ポイント
このカードの有効期限 : マキ交代日の翌日から1ヶ月
なるほど、10ポイントたまると "モバゲーのマキ" の役目を誰かに押し付けることができるのか。
で、誰に押し付けてもいいけど、必ずポンポンポン、相手の肩を3回たたくのを忘れずに、か。
そして委任されたマキは、5代前までのマキが蓄積した情報を譲り受ける。 マキシステムの用法とともに。
カード以外に説明書すら添付されていなかったが、私はこのシステムの一部を理解した。
まるでニッキョーソを飼うと決めたときのように。神託のように。
しかし、それでも疑問が残っていないかと問われれば嘘になる。
私が無為に過ごしたこの1週間が悔やまれる。あと3週間で、7ポイントを稼がなくてはならない。
そのためにはまず、何をすればポイントを溜まるのかを知らなくてはならない。
キーは現在持っている3ポイントだ。この1週間の私の行為のいずれかが、加算に繋がったのかもしれない。
…ところで、「有効期限」を過ぎるとどうなるんだろう?
ああ、眉間が痛い。私の半分は疚しさでできているんだ。
禿のある毛むくじゃら団子は、あのか細い鳴き声を発しながら、私のすねに体をこすり付けている。ヨダレカムバック。
http://anond.hatelabo.jp/20090318024902
誰かさんにニッキョーソというがっかり命名をされた仔犬は、私との邂逅以来、ブクブク肥え続けている。
曇天のあの日、公園で、か細く啼いたあのイキモノをお持ち帰りして以来、
あの小憎たらしいモバゲーのマキも、メルマガという名の産業廃棄物を押し付けなくなった。快適快適。
これではまるで、マキ避け目的でニッキョーソに鶏肉の水煮缶を与え続けているみたいだ。
お前の食費のせいで私は、ささやかな楽しみだったファミチキを我慢しているんだ。
それをこいつは分かっているのだろうか。 こやつめ、ハハハ。
恨めしいような羨ましいような気持ちで、ニッキョーソ唯一の取り柄であるふあふあの耳毛を撫でる。
こら、目を細めるな小首を傾げるな体をこすり付けるな。
私と暮らし始め、見違えるように毛並みが良くなった犬を眺めながら、思いがけず自分の頬筋が緩むのを感じた。
…相変わらずヨダレすっごい出てるけど、これって躾するべきなんだろうか。
ミヤネ屋を観ながら上の空で自宅を警備していると、トントン、と錆ついたドアが向こう側を敲かれる音がした。
ベニヤとトタンで構成されたボロアパートだ。響くから。ちょっとの衝撃で響くから。
はいはい今ドア開けますからもうノックやめてくれーと心の中でこぼしつつ、錆びたドアノブを回した。
「久しぶり増田さん。マキです。」
へ?
「え、と。どちらのマキさんでしょうか。」
「あはは、やだな増田さんてば。3ヶ月連絡しなかったぐらいで忘れないで下さいよぉ。」
「モバゲーの、マキです。」
「モバ…?」
こういう時なら当然の反応をさせてもらおう。
状況を飲み込めず鳩に豆鉄砲フェイスでフリーズする私と、部屋の奥からトコトコ出てくるニッキョーソ。
「あ、ニッキョーソじゃない。おっきくなったねえ! 増田さんにここまで育ててもらったんだ。」
…なんでこの女、ニッキョーソの名前知ってるんだ? 私の名前はともかく、この毛むくじゃらヨダレ団子の名前を。
頭がガンガンする。混乱して思考を展開できない。記憶を辿れない。
さっきまで満面の笑みで仔犬を撫で回していた自称モバゲーのマキが再び口を開く。恐ろしいほどの無表情で。
「ねぇ増田さん、明日からあなたが "次のマキ" になることが決まりました。」
それだけ言って彼女は、私の左肩をポンポンポン、と3度叩き、「それじゃ。」私の部屋を後にした。
踵を返す瞬間、彼女は口角をつり上げ奇怪に嗤ったように見えたが、真相は毛むくじゃらヨダレ団子のみぞ知る。
冷めたファミチキを齧りながら、工事現場の脇を抜ける。そういえばコンビニの店員インド人だった。
そのまま目的なく歩き続けていると、どこからともなく鶏糞のような臭いがしてきた。ひと雨降りそうだな。
公園を突っ切って向こうの通りに出ようか、などと考えていた時、
ベンチに寝ている上下サーモンピンクのスウェットを着た老人の陰から、貧相な仔犬が現れた。
イヌは足元に寄ってきて、私の進行を妨害する。しかもすっごいヨダレ出てる。
仔犬相手にほんの少しイラッときた心の狭い私は、一旦足の動きを止めた。
こっちは今機嫌が悪いんだ。ここ1週間誰からもメール来なくて、来たと思ったらモバゲーのマキだったから。
そんな思いをかるく込めて、首輪さえついていないヨダレを垂らした痩せっぽちのいきものを睨み付けてみた。
イヌはちいさく体を痙攣させて、一度だけ、か細い鳴き声をあげた。
私の耳には、仔犬が「ニッキョーソ」って鳴いたように聴こえた。
(ちなみに私は耳掃除が大好きで、綿棒でグリグリやってはよく炎症を起こす。)
鳴き声を己の耳にとらえた瞬間、「ああ、この貧相なイヌは私に飼われるんだな」と思った。
神託だと思った。
同時に、もう二度とモバゲーのマキは私の元にメルマガを寄越すことはないだろう、そう確信した。
私の足元で鶏肉の水煮にむしゃぶりついている。相変らずヨダレはすっごい出てる。