2022-08-18

楡の歌

一筋の樹木がそこにはあった

その樹木の陰に、寄り添うように一人の人がいた

その樹木名前を、その人は知らない


今、その場所にその樹木はない

その人もどこかへと行ってしまった

その場所を訪れることももうできない

もう存在しない土地に、存在しない樹木存在しない誰か


戦争があったわけではない

爆弾が降ってきて、地面を燃やしたわけではない

誰かが海を枯らしたのではない

誰かが目を閉じたのでもない

夢を誰かが払ったのでもない


そこには昔、一筋の樹木があった

そこには一人、寄り添って眠る人がいた

そんな場所が、昔はあった


土手の道を自転車で進みながら、そんなことを考える

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