名前だけは知っていた。それだけの理由で、軽い気持ちで出かけた。
そこに彼はいた。
真っ赤で流麗な曲線を描くボディ、ツンととがった鼻先、揺れる炎のようなフォグランプ。そしてあの瞳。こちらを睨みつけていながらも、楽しんでいる様な表情をしている。
彼は自信満々でこちらをご覧になっていた。こっちに来いよ、と誘われている気がした。私はフラフラっと寄った。「試乗していいですか?」とお願いしていた。
乗り込むと内装は落ち着いていて品があった。静かで、とても心地良かった。
彼は、他の色より高いのだという。ナマイキだ。
そのあと、他の車も乗ってみた。どれもいい車だったが、彼よりいい車とは思えなかった。
帰宅してから、あの赤が忘れられなかった。もう彼しかない、彼以外考えられなくなっていた。自信満々なあの佇まいに、私は飲み込まれたいと思った。
ナマイキな彼は私の愛車となった。
彼と私を繋ぐ鍵、何をつけようか。夏はどこに行こう?
彼はもうすぐ私の元へやってくる。