2010-12-01

約束

母と買い物していて、台で買ったものを袋詰めしていると、誰かが声を掛けてきた。

中・高の同級生のお母さんだった。

その同級生の子はとても勉強ができて、吹奏楽部だったのだけど演奏もすごく上手く、

だからと言ってそれを鼻にかけている風ではなくわりと控えめ、加えて可愛らしい容姿で皆に好かれていた。

彼女は高校では理系を選択し、大学進学後、これまた大学院に進み、来春から有名な製薬会社研究職に就くそうだ。

常に白衣を着る生活かー。私には全く無縁。

そして、彼女のお母さんが私に話を振ってきた。

「まだ探してるんですよ。アルバイトしながら」。そう言った。

私にとってはそれがそのまま本当のこと。

でも母は「やっと決まったんです」と言いたかったそうだ。

新卒の年(この年の秋にリーマンショックが起きたから、今散々言われてる氷河期にかぶってるといえばかぶってる。でも「売り手市場」とも言われてたし、大体は就職できていた)に就職が決まらず、引け目を感じてゼミに行けず、そんなことを大目に見てくれる教員はなかったから、あっさりと留年が決まった。

そして地元に帰り、週1回のゼミはなるべく出席しながら同じように活動を続けた。でも結果は変わらなかった。

今度は無事に卒業することができ、そのまま地元アルバイトをしながら細々とシューカツしてる。

1ヵ月半ほど前、内定通知が届いた。拍子抜けするほどあっさりしたものだった。

それでも本当にうれしかった。やっとこの生活から抜け出せる。母の力になれる。

しかネットでその企業のことを検索してみると、悪い情報ばかり。一気に目の前が暗くなった。

ネット情報ばかり鵜呑みにするのはアホらしいし、とにかく行ってみないと、やってみないとわからない。

そりゃそうだ。まずは経験。私は今、何に関しても「未経験者」なのだから。

でも怖かった。今でも怖い。だから母以外の人には内定をもらったことを言わず、シューカツを続けている。

母にも「とにかくちゃんと自分で決めるまでは誰にも言わないで」と言った。

しかし母は友人や職場の同僚に嬉々としてそのことを伝えているらしい

だから今日、あのときも何のためらいもなくそう言おうとした

母の気持ちだってわからんでもない。

とんだ親不孝者がやっと就職を決めた。

悩んでる?馬鹿を言うな、なんでもいいからとにかくやってごらんよ。

やりながら公務員目指したっていいんだから。

簡単に言う。別に間違ったことじゃない。でも、何で「言うな」って頼んだことを平気で言ってしまえるんだろう。

同級生のお母さんが去った後、また念押ししておいた。

ちょっと空気が悪くなった。いつもなら何か弁解したりして雰囲気を和らげようとするんだけど、今日は何もしなかった。

ああやって比較されてしまうと気が焦るんだろうか。

何でこの子はあんな風になれなかったんだろう、ってきっと思ってるんだろう。

本当に申し訳ない。でもこのまま投げ出してしまいたくはない。と思いながらもどこかで安心してる自分もいる。

喝。

少しでも自分が満足できるものに近いことをしたい。

だからもう少しの間我慢してほしい

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