能率と効率の違い
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職人という言葉には総じて良いイメージがあります。「職人肌の人」と言えば、まじめに一つのことに対してコツコツと追求する人のことですから、私もそういう人が好きです。特に最近の中国人には「眼高手低」(望みは高いが、実行力がない)のような人が多いので余計に職人への偏愛が高まります。
しかし、世の中の理屈には絶対的なものが存在しないのです。日本人が好む職人魂が日本の産業をよくしてきたと考える私にはショッキングな話を耳にしました。あのトヨタ式の導入の第一人者である若松義人さんの話です。
先日、久しぶりに若松義人さんとランチしながら雑談しました。なんと彼は「トヨタは職人に頼らない。誰でも作れるようにするのがトヨタの強みだ」と言い切ったのです。
そういえばそうです。トヨタ自動車が世界のトップメーカーになっている現在、その従業員も工場も市場も殆ど日本以外にあります。名実共に日本発のグローバル企業で日本の誇りですが、日本の職人に頼ったら今日はあり得ないのです。
反対に衰退の一途を辿っているGMは職人に頼っているそうです。単一の車を生産する工場が多く、その工場の中で単一の作業に特化した工員も多いそうです。結局良い時はいいのですが、変化が必要な時には対応が遅れてしまいます。
トヨタの工場では同じ生産ラインでも様々な車を生産することができます。また工員はなるべく多数の工程と作業を経験するように経営側が促しています。市場の変化に柔軟に対応できるようになるだけではなく、工員達が常に頭を使い、飽きないようにする工夫でもあるそうです。
「職人」はなぜいけないか。この質問を若松さんにぶつけたたら面白い答えが返ってきました。「職人は能率を求めるが、経営は効率を求める」と。
私のような外国人がもちろん、多くの日本人も「能率」と「効率」の区別ははっきり付かないと思います。若松さんは「能率は職人の能力で部分最適化であるが、効率は経営の能力で全体最適化だ」と言い切りました。
若松さんが紹介してくださった広州トヨタの事例が面白いと思いました。広州トヨタの従業員の平均年齢は23歳です。当然皆、経験の浅い従業員ですが、生産ラインの直行率(完成車の合格率)は98%に達しているそうです。なんと日本の工場でも96%にしかいかないので広州トヨタは世界一の品質に到達していることになります。ちなみに倒産寸前のGMの直行率は60%台です。
トヨタの改善についても知らない人はいませんが、どうもその改善の中身についてはかなり各企業が勝手に解釈しているようです。社員が自由に集まりそれぞれ自分の改善を自慢する会社が多いと思いますが、トヨタの改善は作業の改善ではなく「標準」の改善だそうです。
トヨタ式においてはどんな作業にも必ず標準があり、どんな社員も必ずその標準に沿って仕事をするのです。改善とはその標準への改善であり、標準が変わった以上、誰が作業してもその標準を保証しなければなりません。作業毎、工程毎の標準が保証される仕組みがあるから、最終的な直行率が自然に保証されるのです。
日本語の「標準」はなんとなく「マニュアル」、「不変」というイメージがありますが、若松さんの話を聞くとトヨタの標準とは時間軸において常に変化するものだと気付きます。
「営業、総務、サービス業など生産現場以外の経営においては標準化への理解と取り込みはもっと遅れている。開発、生産と営業が連携して標準化と改善を進めないと企業の競争力がますます落ちる」と若松さんは警告しています。