http://anond.hatelabo.jp/20100123120122
こちらこそはじめまして。元増田です。英語が得意でないとおっしゃるにもかかわらず、紹介した論文に目を通す労を取っていただいてありがとうございます。そういう方がいるだけでも、2時間近くかけてあれこれ和訳した甲斐があるというものです。
(一応の確認ですが、この元増田さんの主張って「日本の植民地主義が他の帝国主義国家のそれよりも、被支配者にとって有益であった」ってことですよね?)
有益であった、というのが学者(私が読んだのは私が土地勘を持つ経済学者のそれが多いですが、American J. of Socio.の論文でも韓国の資本主義の発展についての日本の寄与について言及がありましたので、経済学者という表現は避けました)の「コンセンサスである」というのが主張です。この点についてはhttp://anond.hatelabo.jp/20100121082524 に少し詳しく書いてありますのでご覧下さい。
1) ここでCumingsが書いているのは、「日本のviceはヨーロッパの帝国主義国家と似ている(かもしれない)けど、virtueは全然似ていないよ」程度のことであって、「日本の植民地主義がヨーロッパのそれよりも有益であった」なんてことは言っていないように思われます。
コンセンサスとしての有益性はReynoldsの論文に一言でまとまっていますので、そちらを参照してください(大学図書館でないと原文は見つからないかもしれませんが、上のリンクにごく一部ながら訳を乗せてあります)。または、同じリンク先のBooth(2007)の最初の数段落(上のエントリーに若干の和訳あり、原文アクセス可)を参照して頂いてもいいでしょうし、Kohli (1997)も農業の生産性向上、資本主義の萌芽としての植民地時代(Eckertの引用も含め)、国家権力を後ろ盾にしての労使関係の(強制的な)改善と、それに伴う生産性の向上、などを挙げています。特に、農業の労働投入の増加ではなく生産性の向上による収量の増加は、多くの論文で当時の植民地経営としてはユニークなものと指摘されています。また、韓国や台湾が資本主義を受容するための有形無形のインフラストラクチャーが植民地時代に整備され、それが戦後の韓国台湾の急速な成長を支えた、という点も、広く受け入れられた見解となっていることはBoothが指摘するとおりです。
Cumingsの著作の中からは、p486の第2段落を参照してください。また、有益の度合いは下がりますが、p489の「多くの植民地ではde-developmentが進行したが、日本の統治下の韓国で起こったのはover-developmentであった」という指摘はなかなか興味深いので一読をお勧めします。
2) で、virtue=美徳ですが、一般的には「あのひとは勤勉だ/勇敢だ」のように、人間が持つ性質や姿勢のことを指すと思います。
virtueにはいくつか意味があり、どれも日本語では美徳の言葉でくくりえるように思えたので、一番一般的な訳を用いました(それでも疑問が残ったので訳出元の単語を併記しました)。この単語はモラルの高さを示す意味のほか、長所や有意義であること、のような意味合いも持つので(後者の場合、必ずしも人間の姿勢や性質を表すことに用いられるとは限りません。ODEで念のために確認しました)、そちらの意味で取るのが正しかろうと思います。
"The virtues that the Japanese shared"を元増田さんは「軍事的な成功、急速な経済発展などの、日本がもたらした美徳の数々」と訳して、日本が朝鮮半島にいいことをした!と主張されていると思うのですが、実際はこれ「軍事的な成功、急速な経済発展といった、日本人が持っていた優れた点」ぐらいの意味じゃないでしょうか。
その訳ではsharedの単語がそっくり抜けてしまいますし、その直後のwere hard to justify philosophicallyと繋がらなくなってしまいます(日本の急速な経済成長や近代的工業構造といった日本人の優れた点それ自体がunjustifiableだというのはおかしいですよね)。
軍事的成功というのは私も少し引っかかりましたが、p479にある、韓国の指導者の幾人かが日本の訓練した軍を率いていたり日本軍に参加していたりしていたことを指している、と解釈したのですが、いかがでしょうか。多くの朝鮮人が日本軍で訓練を受けたことは確かですし、その中には士官がいたことも事実なのですから。
それから、私は日本の植民地政策が朝鮮にとって有益であったというコンセンサスがある、と書いていますが、『いいことをした!』とは書いていませんし、思ってもいません。良いか悪いか、善か悪かは、有益かどうかとはまた異なる評価基準が介在するでしょうから、ここでは議論の対象にしていません。だからこそ「善政かどうかはともかく」という但し書きを入れています。そもそも、「日本の植民地政策は正しかったというコンセンサスがある」と主張するなら、私がCumingsの『日本人には、信じるに足る「自らを正当化する神話」は存在しない。』という言葉を引用した段階で、その主張は破綻してしまいます。
3) 論文冒頭(479ページ)でCumingsは、
「アメリカが朝鮮半島に深く関わるようになって長い時間(日本の侵略期間と同じくらい)が経つのに、自由選挙・自由民主主義・基本的人権の尊重といったことが根付かないのは、日本の侵略の影響がいまだ継続している、つまり、日本の侵略の影響が、大戦後の韓国・北朝鮮の両国家をさまざまな方法で形作っていったからなのだ」
この点は私の引用部とほとんど同じことを書いていると思います。日本は自主独立のよき教師でもなければ、民主主義のよき規範でもなかったのです。ですが、Cumingsはそのような「悪い」側面を鋭く批判する一方で、ヤヌスの顔のもう片方、practical virtues(実用面における長所、有意義性、有益性とも訳せるでしょう)についても語っているのです。個人的な感想になりますが、こういうバランスの取り方は大切だと思います。このバランスは専攻分野の違いによって左右されるものの、学界で一般的な態度といってよいのではないかと思います。
http://anond.hatelabo.jp/20100119124726 上のエントリーについて、こちらのブログ(http://d.hatena.ne.jp/dondoko9876/20100118/1263799034)でコメントを頂戴したので、もう少し書いてみたい。 日本の植民地経...
この意見が妥当かどうかはともかく、匿名で主張しているのではそもそも検討に値しない。 どだいPollytically Correct的に受け入れられない意見だから自分のブログで発表したくないという...
横だけど、元増田が書いているのは、元増田の意見ではなく、一流論文誌に載っている事実だよ。 この意見が妥当かどうかはともかく、匿名で主張しているのではそもそも検討に値し...
横だけど、 横だけど、元増田が書いているのは、元増田の意見ではなく、一流論文誌に載っている事実だよ。 選んだ論文が恣意的であったら、元増田と近い意見になるだろう。 あな...
http://anond.hatelabo.jp/20100121011555 元増田です。 横だけど、元増田が書いているのは、元増田の意見ではなく、一流論文誌に載っている事実だよ。 選んだ論文が恣意的であったら、元...
http://anond.hatelabo.jp/20100123120122 こちらこそはじめまして。元増田です。英語が得意でないとおっしゃるにもかかわらず、紹介した論文に目を通す労を払っていただいてありがとうございま...
うれしそう
「一流論文誌」が証拠で、本人が「匿名」ですか。ふーん。 それが妥当だと思うなら別に止めはしませんよ。判断は読者がするでしょう。
ていうか「一流紙に載ってるからこの論文は正しい」って一番やっちゃいけない論文の読み方だと思うんだが 他の論文にも記述されているって言いたいのかもしれないがそれならなおさ...
「1950年以降の台湾と韓国の経済的成功は、少なくとも部分的には、日本の植民地政策の遺産に依っている」という見解が広く受け入れられている、ということを信じるかどうかであっ...
まー、この論法だと「中国共産党はチベットを封建社会の桎梏から解放し、飛躍的経済発展と生活水準の向上をもたらした」も 認めないといけないけどな~ 認めればいいんじゃね?...
横ですが あなたが恣意的なのは 1950年以降の台湾と韓国の経済的成功は、少なくとも部分的には、日本の植民地政策の遺産に依っている ではなくて あなたが強調した部分 日本の韓国...
「XX大学のXX教授が一流誌にかいてらっしゃる!」っていう議論の進め方は、 あんまり面白くないんじゃないか。 「学術論文」ひっぱれば事足りる、という考え方が、根本にないだろう...