2009-08-23

生活保護とKちゃん

http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090821ddm041010083000c.html

こうした記事を読んだ人は、おそらく「どうして回転寿司で20皿以上も食べるのか。しかも毎月。意味が分からない」と思うだろ。もっともだ。その月に一度の贅沢をしなければ、すぐにスーツくらい買えることもわかるだろう。当然だ。

だがこのような報道だけで、「生活保護」と言うものを考えないで欲しい。

この記事はそのために、かなり覚悟をして書く。

私の同級生のKちゃんは、背の高い女の子だった。

彼女学校が終わった後、家に帰ってすぐに着替えて、スーパークリーニング屋さんで毎日アルバイトをしていた。私たちは高専生だったので、実験などでどうしても、それがかなわない日もあったが、それを除いてほぼ毎日だ。

Kちゃんは生活保護を受けている家庭の子供だった。

父は元々ヤクザで体を壊して働くことも出来ず、母は統合失調症に苦しみ実年齢よりは十以上も老けて見える人だった。妹はまだ中学生だったが不登校だった。

Kちゃんは奨学金学校に通っていた。無論、成績を落とすわけにはいかない。彼女クリーニング屋さんでアルバイトを選んでいたのは、凄く賢いアイデアだった。お客さんの少ない時は勉強する余裕があるし、スーパーの中だから安いものを買って家に帰ることも出来る。

生活保護」の関係で毎日働いても、Kちゃんの給与は2万円程度だったと言う。だけど、Kちゃんはそれでも真面目に働いて、いつか役に立つと信じて貯金を続けた。しかもそれだけの事をやりながら、学科で常に3位以内という成績を保っていた。

ある時、Kちゃんが左目のあまりに青あざを作り、眼帯をして登校してきた。本人は周囲に驚かれると「転んでぶつけたの」と笑って見せていた。だが、もちろんウソだ。あれは父に殴られたためなのだと、私は偶然知っていた。

こんな漫画の様な言い訳を実際にして、周囲に笑いかける人間がいるなんて。

あまりにも残酷で、当時の私は彼女になにをしてあげるべきか、解らなかった。ただ真実を隠しておくべきだと思い、いつものように学食のメニューでなにがお得か、相談したりしていた。

卒業を間近にして、Kちゃんの父が他界した。

周囲は「あの父がいなくなる」事を喜んでいる様子すらあったが、Kちゃんは泣いていた。例えどんなことをされても、やはりお父さんだったのだろう。この頃、高校に進学できなかった妹さんもまた、うつ病になり苦しんでいた。だが通院しながらも、まるで姉の背中を見るように、アルバイトを始めた。

そして、卒業後。

Kちゃんは就職を選んだ。高専の学科で3位以内と言えば、普通は「進学して当然」だ。だが、それによって収入が得られないリスクから、彼女は「母と妹違う家庭」で、自分生活費を稼いで働くことを選んだのだ。こうすれば「生活保護」のままでも、自分がいない分、生活が楽になるのだから。

数年後。Kちゃんの母が他界した。見つけたのは妹だという。

Kちゃんに「お母さんがトイレで死んでいる」と言う電話がかかってきたらしい。私自身、様々な事情があり、その頃偶然自宅がKちゃんの実家のすぐ近くだったので、事実を知り駆けつけた。

喪主はKちゃんだった。彼女残業続きの仕事から、車で高速を走って急いでやってきたのに、ほとんど疲れた様子も見せずに毅然と振る舞い続けていた。

今、Kちゃんは幸せになっている。

偶然仕事で再会した同級生と恋愛し、結婚し、子供をもうけた。妹も病気が回復し、自分の意志で勉強などを行っている。近いうちに、学生時代にKちゃんと一緒に働いた貯金のおかげで、高卒資格を取れるはずだ。

これはあくまで、私が出会った一例にすぎない。

だが本来「生活保護」は、Kちゃんのような人間が、こんな風に当たり前の幸せを手に入れるために必要で、そのためにあるのだと、私は信じているし、出来ればこれを読んだ人にはこの意見を共用して欲しいと思う。

  • Kちゃんの話からどんな結論が導けるのだろう。生活保護は現金ではなく、暴力父に浪費されたりしないように、食料や衣料の記名引き換え券として配布すべきということだろうか。

  • 正しい生活保護と正しくない生活保護があるというだけの話。 この正しい運用をしてほしいと皆願っているのだが、残念ながらそうなっていないから、役人がたたかれ、受給者がたたか...

    • そうかな? 生活保護受給者を叩く人の多くは、このKちゃんの例を見ても 「大学進学出来ないのなんて当たり前、高専も義務教育じゃないんだから辞めて生活保護なんて受けずに働け。 ...

  • そう、生活保護ってのはそういうものさ。そう使われて欲しいとみんな思ってる。 役立つところへ生活保護の手が届かず、それを本来必要としない輩の手に渡っているのをもどかしいと...

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