2008-11-11

http://anond.hatelabo.jp/20081108170922

なるほど。数日の議論を読んでみて、水村本の目次を確認してみると、否定派および肯定派がそれぞれの立場に別れた理由が少しわかっってきた。

目次・水村美苗日本語が亡びるとき』http://books.yahoo.co.jp/book_detail/32157995/

1章 アイオワの青い空の下で「自分たちの言葉」で書く人々

2章 パリでの話

3章 地球のあちこちで「外の言葉」で書いていた人々

4章 日本語という「国語」の誕生

5章 日本近代文学奇跡

6章 インターネット時代の英語と「国語

7章 英語教育日本語教育

なるほど。本で第4章以降を読んだ人からは、もう知ってるよという反応や具体的提案についての否定的コメントが出てくるのも頷ける。日本語とか英語とかあるいは語学教育とかについて何か語りたくなる人も現れるだろうし、反対に、多文化主義的な観点からのコメントも出てくるだろう。

わたしなどは、8月に読んだからでもあるが、むしろ第1章がとてもおもしく感じられた(そりゃあだって、理論的な解決がこの本にあると思って読む人なんているだろうか。水村さん作品に親しんでいる人はもちろんそんなこと思わないだろうし、煽った人たちの力点もそこにないだろう)。

おそらく、

柄谷周辺の論者の問題意識に沿って書いた議論の向かう先・解決策を期待してこの本を手に取るか、あるいは、「アイオワの青い空の下で「自分たちの言葉」で書く人々」と交流しながら問題の所在を発見するというその出発点に着目するか、これにより、この本の評価はかなり分かれるのではないか。

多分、梅田さんがこの本について語りたくなったのも、水村さんがアイオワで様々な国からやってきた文学者と触れあう内に、日本日本語についての問題に近づいていったというプロセスを、梅田さんの場合であればシリコンバレーでの経験になるかと思うが、この本を読みながら追体験し共感したからのではないか、とわたしは思った。

第1章のところだが、アイオワに各国の作家とともに招かれて出会った内の一人が、若いころロシア娘と恋に落ちたりもしたことがありその頃学んだロシア語を用いて盆栽に詳しいリトアニア青年と会話のできるモンゴルの老詩人で、何かの時に水村が老詩人に向かって“You are an important person”といったときに、英語が苦手なのでたどたどしいながらもゆっくりと静かに“Everbody is important”と答える場面やそのほかの場面は、外のものに触れることでいくつかのばらばらの点が繋がり問題が自分のものとして感じられるプロセスとして見ることができ、さすがにマドル・スルーというようなものではないが、問題を自分のものとして受け止める過程はそれなりに緊張し疲れるのだが充実した読書だった。

そういうことが問題となってるのはずっと昔から知っているよ、何この話、古くさい、というのは十分あり得る反応だろう。ただ、問題の所在を個々人がそれぞれ理解するというのはそれとは独立重要なことだろう。もちろん、この本とは別の入り口でも全然かまわないのだが。

そういう意味では、今回の騒ぎをきっかけに、こういう問題があるんだあ、と思った人にとっては水村さんの本は一つの入り口として悪いものではないと思う。

別の話。

http://d.hatena.ne.jp/Thsc/20081109/p2

話は少しそれるが、これを読んで、まず、「あたし彼女」読もうと思った。

もうひとつ思ったのは、

新潮9月号に載った前半部読んだ感想としちゃ、読めたもんじゃないよ。

何の説明もなく日本文学は一人で幼稚なものになっていっていたと断じている作家が、この『ひとり』をひらがなに開く言語センスすら持ち合わせない作家が、<叡智を求める人>は今の日本文学など読まないなどとぬかしているのだよ。

という記述について。この方の水村本の理解からはそのように読めるし、きっと正しいだろうと思う。

ただ、もうひとつの可能性もあるのではないかとわたしは考えた。(いま新潮および本が手元にないので原文を確認することができない。「一人で」あるいは「ひとりで」が本のどのような箇所でどれくらい用いられれているか確認しないままではあるが、Thscさんの指摘にインスピレーションを受けてわたしの理解を書いてみることにする。)

Thscさんの主張はおそらくこうだろう。

日本文学は一人で幼稚なものになっていっていた」

という文の「一人で」は、「おのずから(自ずから)」あるいは「ひとりで勝手に」というニュアンスで用いられていると理解できる。そうであれば、「ひとりで」とひらがなで表記するべきであろう、と。

しかし、もしかすると別の考え方もあるのではないか。

「一人で」と漢字で表記するという点に固有の意味を見ようとするならば、日本語が「ひとりで勝手に」幼稚なものとなっていった、という理解とは別の理解でこの文を読まなければならない。その理解とはこうだ。

水村の議論全体をふまえると、水村は「言語というものは孤立すると衰退する」と考えているのではないだろうか。言語は「一人」になると衰退する。

このようなニュアンスを込めて、ひらがなにせず、あえて漢字を用いて「一人で」と表記したと考えることはできないだろうか。ここではそのような理解の可能性を指摘してみよう(もちろんこれはまだ単なる思いつきの段階であり、実際には、本文で語が使用されている箇所を逐一チェックしていく必要がある)。

ただし、このように考えたとしても、それならば違った書き方をするはずだ、等の疑問は当然に出てくるだろうし、結局のところは、Thscさんの理解が穏当なところだろうとわたしも思う。

別の可能性を指摘しただけでは水村さんが確信犯で「一人で」を用いたことの立証にはならないし、ひらがなか漢字かの選択だけでこのような微細な部分をオミットするのは文章家として正しい態度ではないのだから、いずれにせよ批判されても仕方のないところだろう。

記事への反応 -
  • 【要旨】  梅田望夫さんが水村美苗『日本語が亡びるとき』の紹介をしていた。ブックマーク数は多いのだが、梅田さんの紹介にやや舌足らずな点もあるからか、反応もいまひとつのよ...

    • つ★ おおー!まさにかゆいところに手が届いた感じ! イマイチ元の文章を読んでも、何がなにやらよく分からなかったのだ。 いい文章を見た。感謝。

    • 昨日、id:umedamochioさんの紹介にインスパイアされて、 http://anond.hatelabo.jp/20081108170922 にて本の紹介記事を書いた。そこで、この本を読んで、熱く反応する人、つまり、水村さんの問題意識...

    • 昨日、d:id:umedamochioさんの紹介にインスパイアされて、 http://anond.hatelabo.jp/20081108170922 にて本の紹介記事を書いた。そこで、この本を読んで、熱く反応する人、つまり、水村さんの問題意識...

    • ああ、なるほど。 これを読んで分かったのは、梅田望夫はやっぱりダメだなあ、ということか。 こういう風に書いていればコメント欄で批判を受けることは無かったろうに。

      • 自分が読んで思ったのは、逆に元増田の崇高さとでもいうようなものに対する好感情だ。 梅田氏はくだらないはてブばかりと思っているかもしれないが、 同じはてなサービスの中で、こ...

      • 本人は書評を書いたつもりはないんだろうし、全部書いてしまうにはもったいないというのか、 感動が生煮えになるので今はかかないのだろう。 あくまで自分が共感した部分について触...

    • 普遍=善、特殊=悪、って思考なのか。普遍が常にいいとも限らんのに。

    • 技術者の間じゃ、普遍語はもう英語だよなぁ。 分かりやすいところじゃRFCだし、ちゃんと調べていくと英語の文献にあたらざるを得ない状況は結構ある。 オープンソースなんかだと...

      • 「技術者」ってのをそう使わないでほしいと思った。じゃあなにって言われると「情報技術者」「IT技術者」かなぁ。いまいちだけど。 ま、他の技術者も英語が普遍語(医療系も今は英語...

      • よく出る話だが、そういう「IT系のごく一部」の事情だけをもって「技術」とか言ってくれるなよ。 どうしてはてなーって、日常言語とITだけで世界が成り立ってるみたいな単純な世界観...

        • 横だが、そっちの攻め方をするなら。 俺様の技術分野は日本語が最先端の文献だぜ? 技術屋には英語が普遍語とか、一般論で語るなよ。 てめぇらみてぇな土方と一緒にすんじゃねぇ...

          • なぜ?俺は日本語が亡びるだのなんだのなんて下らん話はどうでもいいんだよ。生半可なIT屋が「技術」の言葉を簒奪することに文句があるだけなんだよ。

            • その気持ち、わかる。簒奪ってのはちょっと違うと思うけど。 「生半可なIT屋」がやってることなんて、普通の?いや、IQが日本人の上1/3に入るぐらいの人ならみっちり2週間ぐらい本気...

              • その辺の認識について言えばさ。 「生半可なIT屋」ってレベルの人間には、「ずば抜けた技術力」は要らないね。サンプルは俺。 対外交渉(それも国内限定)がメインの「えすいー」だ...

              • いやいや、俺はそこまで言うつもりはないんだけどな。 ただ、いわゆる「IT系」ってのは経営工学という、工学の中ではかなり異端な分野の応用のうちのごく狭い範囲に過ぎないわけで(...

                • 画像処理とか音声処理とかもやるIT業界にいるが、いわゆるプログラマ系の人の言う『技術』っていう言葉の使い方には凄く違和感を感じてる。

      • ちょっと面白い。 別にIT特化した事を書いてるわけでもなく一般論に見えるのに、解り易い例示としてIT系の簡単な事しか上がっていないために批判されている。

    • 本自体は読んでないから本書の内容へのコメントは差し控えるけど、これを絶賛してる文章って数年前に「ブログってすごい!日本にはない革命的な文化!」と絶賛してた文章と同じ匂い...

記事への反応(ブックマークコメント)

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