うちの家族仲は悪い。体罰たっぷりのしつけを繰り返してきた母と、家庭を顧みなかった父、両親に反感を持って育った私と弟1。けれども、私や弟1とはずいぶん年が離れて弟2が生まれた。
その弟2は母にかわいがられて育った。少なくともそういう様に私や弟1の目からは見えた。弟2が母から殴られてるとことか全く記憶にない。だから私や弟1は弟2が嫌いで、年が離れて話題もないからほとんど話さず、やっぱり家族仲はどこかいびつなまま来てしまった。
私も弟1も家を離れ、実家には弟2と両親だけが残った。
そんな中私は病気にかかってしまい、通院と療養のために実家に帰ることが多くなった。そして弟2とよく話すようになった。
弟2は素直な若者だ。私や弟1のように屈折して二次元の世界に逃げたりすることもなく、野球に打ち込み、友達とも仲良く、思い出の写真を大切にする子に育った。同時にTVっ子でもあり、電車男が全盛期だった頃にはずいぶんはまったらしくて中野独人さんの本を買ったりもしていた。少なくとも私はこの素直な弟2に母への憎しみの影を見るのをやめた。
そしてその弟2も、つい先日18歳の誕生日を迎えることになった。
母はケーキを、そして私は弟1が仕事で作った鶏の唐揚げを買っていき、食卓を囲んだ。母、私、弟2の3人で。ちなみに父は仕事の都合でおらず、弟1も弟2の誕生日だからといって実家に帰ってくることはしなかった。
そして一通りご飯を食べ終わった後、母が弟2にナイフを渡した。「これで好きなようにケーキを切って食べなさい」と。
弟2は悩み始めた。そのケーキは長方形で、対角線で2つのエリアに区切られ、片方にはココアパウダーが、もう片方にはシュガーパウダーがかけられていた。弟2はこう言った。「これじゃ、全員が二つの味を楽しめない。それは仕方ないから、母さん、対角線にそって4等分に切ってくれ」と。そういって弟2は母にナイフをかえした。母はこう言う。「お前一人でたくさんのケーキ食べなくていいのかよ?お前の誕生日だよ。もっと欲張っていいんだ」と。けれども弟2は「え、だってみんな同じだけが当たり前でしょ?」と言って譲らず、私もたまらず口を出した。「母さん、この子はいい子に育ったじゃないか。弟2の意をくんであげようよ」と。
そこまで聞いて母は渋々ケーキを切り始めた。最初は対角線にそって4等分に。さらにそれを8等分に。そして自分と父の皿にはケーキを一切れずつ取り、弟2の皿にはケーキを二切れ置いた。弟2はびっくりした様子で言った。「母さん、なんでそんなことするの?最初8つにケーキを切り始めたときは、そうか、これでみんな二つの味を楽しむことができると思ったのに」「いいんだよ、私と父さんは一切れで。あんたはその分たくさん食べなさい」
私はこの二人の会話に、というか母の言い分に軽い失望を覚えた。やはりこの人は人の話を聞かない人だ。そして、そんな母の愛でも素直に、人のことを第一に考えるように育った弟2の姿を奇跡のように感じた。
弟2は釈然としない顔をしながらも、母の残ったケーキは明日また食べようという言葉に素直にうなづいていた。
そして私は、そんな弟2に自分ができるささやかなプレゼントをすることにした。ネットが引かれていない我が実家に暮らす、電車男が好きな弟に、携帯版の2chのURLを。