2007-11-29

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調子に乗って書いちゃえばら焼肉のたれ

「そういうわけで、さぁ二人で魔法の国に旅立ちましょう」

そういうと、それまでお嬢様ワンピースだった女はにっこりと笑った。同時に足元から光の輪が舞い上がり、すっと彼女を包む。いや、なんというか輪くぐりをするんじゃなくて、輪が彼女を足元から通り抜けるような、そんな感じ。

「まさか…」

「分かっていただけましたか?」

若干古風なそのいでたちは、紛れもなくファンタジーゲーム魔法使いの姿だった。

「そんな…まさか…」

此れまでは、話半分どころかほとんど信じちゃいなかった。ちょっとイっちゃってる系の女。でも、美人だしちょっとうれしいかなっと思って話していただけ。それが突然、生々しい現実感を伴ってやってきた。鳥肌が立った。

「先ほどの失礼な言葉をお許しください。どうしてもこの世から国へお越しいただき、妖魔どもをなぎ払っていただきたかったのです。私はそのために選ばれ、使わされた魔法使い勇者様である貴方と共に戦う者です」

「いや、待てよ!俺はなんとも言ってないぞ」

「お願いです!われ等の国をお救い下さい!」

心なしか、彼女は悲しげだった。これまでの暮らしでは話すことすら想像できなかったような美女。その美女が俺に懇願している。共に来て、戦えと。勇者となって妖魔を倒せと。

「…無理だよ」

「…え」

「無理だよ、俺、38にもなってニートだよ、職にも就かず、教育を受けるでもなく、訓練を受けてもいないただのだめ野郎だよ。辛いんだよ、苦しいんだよ!もう十分だよ、何が戦いだよこれ以上俺の人生苦しくしないでくれよ!」

涙が出てきた。立っていられなかった。その場にへたり込んで。泣いた。悔しくて、悲しくて、こんな目に合う自分が、こんな人生を送ってきた自分が哀れで。声を上げて。何年ぶりだろう。声を上げて泣くなんて。ずっと声を押し殺して泣いていた。学校へ行けといわれたときも、就職しろといわれたときも、首だといわれたときも、声を押し殺して泣いた。

「残念です」

嗚咽が停まらない。

「一緒に来てくださると思っていました」

「ごめん」

「お気持ちは察します」

沈黙があった。しばらく二人とも黙っていた。

「で、僕が行かないとどうなるの?」

やっと振り絞った言葉は、ささやくような声にしかならなかった。

「わが国は、妖魔に食い尽くされるでしょう。家も、畑も、山も、海も、空も。」

何もいえなかった。

「私の父と母も」

「ほかの人に当たってよ」

「できません。貴方予言の岩が選んだときから、われわれの命は貴方にゆだねられたのです。私の身も心も。」

何だって?

涙でぐしゃぐしゃになった俺の顔はさぞかし醜かったろう。しかし、その醜い顔を持ち上げ、俺は口を開けたまま彼女の顔を呆けたように見た。

「私は勇者である貴方にお供する為に遣わされたのです」

彼女は優しく言い聞かせるように微笑んだ。

「もう一度伺います。来たりて、われ等をお救い下さい」

また涙が流れた。声がかすれる。

「…ごめん。できないよ」

彼女が悲しそうに無言で微笑んだ。

「どうするの?」

「仕方がありません。勇気と共に降臨して下さるのが望みでしたが」

彼女が少し間をおく。

「無理とあらば力ずくで来て頂くまで」

え?

「嫌だ、絶対行かない」

首を振る。嫌だ。命を懸けるなんて嫌だ。怖いのは嫌だ。仕事がなくてもいい、もてなくてもいい。この世界にいたい。

「そうおっしゃると思いました。嫌々来ていただいても妖魔退治にならないのは承知のうえです。しかし。」

しかし?

「帰る国がなければ勇者様とて腹をくくって下さるでしょう」

決然とした表情で彼女が言う。

「この国を、勇者様の世界を打ち滅ぼします。此れまでのことはすべて夢と忘れてわが国にお越しください」

記事への反応 -
  • 妖怪退治のリーダーで良いじゃん 妖怪はどこいったっw ITがやりたいならITで良いけどプロット大幅にかえんといかんね

    • おっとすまん、「『魔法使いの美少女ヒロコがアパートの戸をたたく。』までよんだ」だった。 しかし改めて読むと、妖怪退治に魔法使いとって、なんかすごいな。 もう少しこう、「陰...

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