2010-07-23

友だちとその奥さんの話

高校時代の野球部の友だちの話なんだけどさ。

もうすぐ一年になるかな、友だちの奥さんが強盗に刺されて殺された。

当時友だちは出張で家を明けてて、一週間ぶりに家に帰ると奥さんが血まみれで倒れてた。

死後三日近くそのままの状態だったそうだ。

新婚でその家には引っ越してきたばかりで、まだ近所付き合いもなかったから発見が遅れたらしい。

犯人はしばらくして別の事件で逮捕されて、この事件についても自白した。

あれから一年経って、裁判も終わり友だちも職場にも復帰して、なんとか元の生活を取り戻そうとしてた。


でさ、先日奥さんの一周忌も兼ねて、その友だちと俺とその他数人で久しぶりに飲んだんだ。

飲み始めて大分経った頃、友だちが突然笑いながら妙なことを言い始めた。

ここのところ、家に帰ると嫁が死んだふりして玄関に倒れてるんだ。

最初Tシャツケチャップまみれにして、胸におもちゃナイフを刺してる程度だったんだけど

近頃はエスカレートして頭に弓矢を刺して倒れてたり、それは入念な準備をしてるんだって楽しそうに話すんだ。

俺たちも何を言っていいかわからなくなって、昔から楽しい子だったよなーとか言って適当に話を合わせるしかなかった。

そしたら、友だちがいきなり怒り始めちゃってさ、お前らバカかここは突っ込むところだぞ、俺が頭おかしくなったみたいじゃねーかって。

俺はあいつが死んだことはちゃんと受け入れてる。それに幽霊なんか信じてないしな。

でも、家に帰ると嫁がいるんだ。いつも死んだふりして倒れてる。

そこからなんか変な空気なっちゃって、その飲み会はそのままお開きになった。

友だちはべろべろに酔ってたから、家が近い俺が送っていくことになった。

帰り道でも「お前にも見せてやるからなー」なんて意味のわかんないことを口走ってて。


家に着いた。鍵も俺が開けて、ふらふらになってる友だちをベッドまで運んだ。

したらさ、確かにそこに「嫁」がいたんだ。

最後にベッドに倒れ込んだ友だちが言った。


きれいな顔してるだろ。死んでるんだぜ、それで。」

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