2009-09-21

いつの間にか、誰も信じられなくなっていたと気付いた

父のことで姉から電話がかかってきた時、オレは姉が父のことをオレに押し付けようとしているのではないかと疑った。

電話の内容は、父が入院することになったから少し金を負担してほしいというものだった。

父は借金をやめられない人間で、オレが社会人になってから、何度か金の無心をする電話をかけてきて、そのたびオレは嫌な思いをさせられた。父はアル中で酔っ払った父とは会話なんか成立しなかった。そんな親だったから、オレも姉も父とは距離をおいていた。オレは今まで父に金を貸したことはない。どんな嫌味を言われようと、時に怒鳴られようと断ってきた。

それは姉も同じで、そもそも絶対に金を貸すなと言ったのは姉だったし、だから今回の電話は意外だった。姉は、あんな父親でも親は親だから、命がかかわるとなると、子供として何もしないわけにはいかないだろうと言った。せめて入院費くらい二人で負担しないか、と。手術をしなければ父は死ぬかもしれない。オレも世間体が気になったし、姉がそういう風に言う気持ちはわかったから、父が入院する予定の病院と日時を聞いて、オレもその日は仕事を休んで病院に向かった。

だけど、その電話のあった日の夜は、いろんなことを考えた。本当に父は病気なのか? あまりにも急な話だった。連絡のあったその日がちょうど給料日だったこともあって、タイミングが良すぎないかと疑う気持ちが強くなった。まだ借金が残っているのではないか? 父が、どうしてもオレたちの金が欲しくて嘘をいったのでは? 病院に行ったら、借金取りも一緒にいたらどうする? 逃げられるように準備はしておこうか。大金だから、事前に金を下ろしていくのは危険ではないか。オレは父のことはもちろん、姉の言うことでさえ、素直に信じられなくなっていた。

父の入院当日、オレが心配するようなことは何もなかった。姉が病院にきて合流して、父が遅れてやってきた。父は軽い検査を受けたあと、手術室に案内されて、手術後は入院ということだった。その間にオレはATMで金をおろした。金を姉に渡して、父の手術が終わったあとに、手術が成功してよかった、オレは仕事があるからといって、父の麻酔が覚める前にオレは帰宅した。それ以上何も言えなかった。

その夜姉から短いメールが来てた。父は、オレが病院に来てくれたと喜んで泣いたらしい。オレはそのメールに返信をしていない。

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