飲んでたらおっさんが来た。
おっさん曰く;
お前ら全然わかってねぇ!(ビールジョッキで机をドン!)
だいたいからして男女どっちにしたって俺達はあらゆるコンテクストからは逃れられねぇんだ。雨の日も雪の日も、いつだってあらゆる形容詞のついた慣性に従って日々をすごしてる。その鎖からは誰だって逃げられやしねぇ。防衛本能なんだよ。人間に備わった、な。そこで、だ。君らが今議論しているヤリマン女というのはやね、まるでその子を自分と切り離して考えてるみたいだが、そのヤリマン女も一皮向いてみれば君らとおなじなんだって。ただ、コンテクストが違うんだ。君達が考えてる昇進や、卒論や、研究テーマや、年俸や、LifeHackや、NetHackや、転職や、そういったものと違う。それがな、彼女らが読み続けてきた少女マンガであり、ファッション雑誌であり、テレビであり、ネットであり、モバゲーであり、イケメン信仰であり、(他なんとか言ってたけど忘れた)…ブツブツ…人それぞれ違っとるんだ。コミュニティの選択の問題なんだ。そのコミュニティの中でよいとされるものを取捨選択しておるだけなんだ彼女らは。
ちょっとこのてんぷらもらっていい?…あっ、スルメ。うまいなこれ。
(ここから普通の会話が十分ほど続いた。俺と連れは目をぱちくり)
…せやねん。あかん、関西弁でてしもたが。ようはな、自己嫌悪と自己より他者を優先する規律の中で、自らを穢すことでしか自分の存在を認識できない子もいるねんということや。あれやで、でもな、それは認識とちゃ、ちゃ、ちがうんだって。自らを穢すことで、自分の中での自分の位置づけと、周囲から見た自分の位置づけを一致させようとする行動なんや。…だ。生物の社会的な行動の一環なんだ。うん。でな、こわいのがな、いつか、その、自分の抑圧は、ダムが壊れる。流れ出す。するとや、どうなる?
…それが潮や。
やからな、避妊はしろよ。あかんで。子供できたら。潮時っちゅうもんがあるからな。フフ。学生やろ、君ら。それじゃな。
…そういい残して、嵐のようにおっさんは去っていきました。
残された僕と連れは、笑うこともできず、ただぼけっとしてほとんどなくなったスルメのてんぷらをつつき、東京にはまだ闇が残っていることを知りました。