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2008-01-11

裁判リテラシー講座第一回 『訴えてやる』って民事?刑事?>

第一回 第二回 第三回 第四回 第五回

福岡飲酒運転事件について書いたのがそこそこ好評だったので、調子に乗ってシリーズ化してみる。

コンセプトは、ニュースなんかで裁判の話が出たときに、そのことをきちんと理解して、

その内容を適切に評価する能力の涵養、です。

民事、刑事

裁判所が扱う事件を大きく二つにぶった切ると、民事事件と刑事事件とがあります。

これらは明確に区別され、用語も異なり、手続き上もいろいろ異なってきます。

民事事件は、自己の権利を誰かに対して主張し、勝訴すればその権利を国が(強制)執行してくれる、というような事件です。

「金貸したけど返さない奴がいるから訴えて(取り返して)やる」というのはこちらです。

このような訴訟(給付訴訟)の他にも、確認訴訟遺言は無効だ!)や形成訴訟(てめーとは離婚だ!)という類型もあります。

一方刑事事件は、犯罪を犯した(と思われる)者に対して、国を代表して検察官が訴追権を発動して刑罰を求めるものです。

痴漢されたから訴えて(前科つけて)やる」というのはこれです。

どちらにも「訴えてやる」という言葉を使うので混同してしまいやすいです。

しかし、先の通り、この二つは全然違います。

民事事件は、実際に裁判を起こす(新聞では提訴、法学では訴えを提起と言うことが多い)のに対して、

刑事事件は、捜査機関犯人の訴追を求めるのに過ぎない(告訴とくに刑事告訴といいます)のです。

刑事事件については国が訴追権を独占しており、告訴によって対応が義務付けられます。

本人は捜査機関に行って告訴する旨主張すればいい(口頭でもいいのですが、通常は書面で)。

著作権法の議論でたびたび登場する親告罪とは、この告訴がない限り、公訴を提起できない犯罪のことです。

普通親告罪の場合に告訴が問題になります(非親告罪だと普通は被害届くらいで終わります)。

また、法律用語的には、民事に告訴という言葉を使いません。

紛らわしい

このように、手続は明確に違うので、民事事件と刑事事件を混同するのは、

我が国の司法について無知であることを表明するようなもので、恥ずかしいものと思ってください。

こうやって得意げに指摘すること自体もこっ恥ずかしいです(一般常識を得意そうに解説しているみたいで)。

たとえるならRPGHPとMPを混同するようなものでしょうか。

ただ、HPをMPに変えてメテオを放って孫娘の敵討ち(未遂)をした老賢者や、HPMPいれかえのマテリアのように、

刑事と民事がごっちゃになりやすい事案があります。

最たる例が不法行為です。

簡単に言えば、誰かの故意過失により自分の権利利益を侵害された時には、不法行為として民事上の請求権が成立します。

一方、刑事には不法行為という言葉は登場しません。

しかし、犯罪なんてのは、基本的に誰かの故意過失によって生じるのが当然ですから、被害者犯人にいつも不法行為による請求権が発生しているはずです。

ここで、明文上規定がある、名誉毀損を引きます。

誰かに名誉を毀損された場合、民法上、不法行為の一例として、損害賠償請求権が発生します(民法710条)。

同時に、その行為は名誉毀損罪を構成(刑法230条)し、親告罪として捜査機関に告訴することが出来ます(刑法232条)。

ここでは、名誉毀損について「訴えてやる」は、民事の場合刑事の場合、両方に通用することになるわけです。

したがって、掲示板ブログで煽られて、顔真っ赤で「名誉毀損だ、訴えてやる」なんて書くと、どっちがしたいのかよく分かりません。

そんなこと言ってると、無知がバレて、さらなる炎上を招くかも知れませんよ。

見分けるには

ではどうやって、どういう趣旨の「訴えてやる」なのか、つまり、民事事件なのか刑事事件なのかを見分けるか。

それは簡単な話です。

訴追を求めていれば刑事、それ以外なら民事、でおkです。

民事と刑事排他的なので、刑事かどうかを見分ければいいのです。

ここらへんの混乱は、マスコミの用語方法がいい加減だったりするのが原因の一端なので(民事なのに告訴と言ったりする)、

皆さんにおかれましても、用語に拘わらず、しっかりと区別していただきたいと思います。

よって、上島竜兵のいう「訴えてやる!」は、犯罪に対して訴追を求めるものではないので、

せいぜい民事上の不法行為による損害賠償を求めるということだと思われます。

※なお、行政事件とか非訟事件とか、HPMPに対してLPみたいな要素が登場する場合もありますが、基本的に民事の亜流と捉えればおkです。

 
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