「あの。●●高校のひとですよね?」
私が度の合わないメガネ越しに無理矢理合わせて見たその顔は、その半年後なら間違いなく「イケメン」と言ってもてはやされそうな造作だった。クロスシートの向かい側に、たぶんほぼ同い年のそんな男子が座っていたら、リコならもっと早く気がついて、たぶん大騒ぎするだろう。一緒にいたらとりあえず話を合わせて自分も騒ぐけど、今日は一人だし、あまり目を使いたくない。
「ええ、そうですけど。」
「あそこの高校は、休み中も制服を着ないといけないのですか?」
「休み?」
「え?夏休みじゃないんですか?」
「ええ?そうなんですか?」
「ありゃりゃ。そうなのか。そうか、参ったな。」
たぶん、そうやって頭をかいている姿は、さわやか少年なんだろうと思う。けど、正直なところ私はほとんど彼の顔を見ていなかった。
ちょっとブツブツつぶやいているような、考えているような仕草を見せた後、彼はまた話しかけてきた。
「実は……」
ドラマか小説なら、こんな油紙に包まれた三角形の重いブツなんて一つしか考えられない、そんなものを預かったら大変なことになる、車内の他の人に見られたら大変なことになる、そりゃ後から考えれば自分だってそう思うけど、それは他人事のように後から落ち着いて考えるからそう言えるだけだ。
じっさい自分はドアを出て去っていく男相手に、大声でそのブツを振り回しながら叫んでいたのだった。電車の中をどんどん後ろに走って、駅から電車が離れたときにはあやうく車掌に詰め寄って電車を止めさせようとさえ考えていた。
結局あきらめて元の席に戻った時もまだ、そのブツがどんなものかについては考えが及んでいなかった。とりあえず何を受け取ったのか確認しようとして、席で油紙を開いてしまった。
「なんだこりゃ。」
中身をみて私は思わずつぶやいた。けっこう大きな声だったのに誰も気がつかないようだったのは幸いだったのだけど。
http://anond.hatelabo.jp/20070525162807
「おい、君」
声をかけてきたのはこの暑い最中に黒い革ジャンを着込んだグラサンの男だった。ボサボサの頭、無精ひげ、どう見てもまともな人間には見えない。口元には表情ひとつ浮かべずじっとこちらを見ている。濃い色のグラサンをかけていたから直接その瞳を見ることはできなかったが、男がこちらを凝視していることはその雰囲気からよくわかった。
私はあまりに突然のことに返事もできないで硬直してしまっていたが、男は構わぬ様子で勝手に話を続けた。
「君、ちょっと頼みがあるんだ」
男は席を立ち、私の前まで来た。ひょろりと背が高い。しかしそれなりに力もありそうな体つきだ。
「これを・・・あずかっておいて欲しいんだ」
男はそう言って、まわりに気付かれないように三角形の茶色の油紙の包みを懐から取り出した。こんなところで何を・・・!? 私は焦って周囲を見てみたが、回りの人たちは男の行動や言動にあまり感心を持っていないようだった。
私は言葉が出ず、ただ首を横に振っていたが、男は構わずその包みを私の手に押し付けるようにして渡してきた。思ったよりも重量感がある。そんなことを思っているうちに、電車が止まった。
「じゃあ頼んだぞ」
男はそう言うと、私が静止する暇も与えずに風のように電車を降りてしまった。
これはいったい・・・。
あの日はやけに暑い日だった。学生時代の夏休みの最後の一日となるこの日も、他の日と同じく怠惰に過ごしていた。
あの頃はブロードバンドなんていう言葉すら存在していなかった。ネットをやるにはダイヤルアップモデムを介してプロバイダに電話してネットをするという、そんな時代だった。テレホタイムなんていう言葉もあって、午後11時、の二分前からネットに接続するなんていうことをよくやったものだった。
だからこの日も前日の午後11時前後からネットにつなぎ、温くなった麦茶を片手にテキストサイトやら掲示板やらを巡回していたはずだ。貧乏学生という悲しい身分もあって、ワンルームトイレ共同エアコンなしという強烈な環境で、熱帯夜のさなかに汗をだらだら流しながらネットをするだなんて今考えると結構悲惨だけれど、当時はそれが唯一の楽しみだった。
とりあえずやってみようよ。というわけでいくぜ。
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その日、私は増田を覗いていた。自分の書いた日記にトラバが来ていないか確認するためだ。夏休みのあった学生の頃に戻りたい、そんなどうでもいいような日記。独り言だとはわかっているものの、反応を期待してしまう自分がいる。そして自分の日記をリロードすること何度か。ついにトラバがついた。トラバしてくれた日記の内容もまたどうでもいい独り言のように取れた。
しかしこの内容はいくらか不可解だった。別に今日は夏休みの最終日などではない。それなのにこの内容は何なのか?釈然としないままその日記を眺めていると、もうひとつ不可解な点に気づいた。それはその記事のURLだった。
http://anond.hatelabo.jp/19990831000000
8年も前の日付だ。もちろんそんな頃に増田などはない。何かの間違いだろうか?バグ?何か薄ら寒いものを覚えたが、同時にあることを思い出していた。そうだ、8年前の8月31日に、ある不思議な出来事があったのだ…。