毎日、おかあさんのことを思い出す。
恥ずかしくて、まともに話したことがなかったおかあさん。
割烹着をきて、恩を着せる仕草は微塵もなく、黙々と朝早くから台所にいたな。
夜は、俺より先には寝ない。
大きく包んでくれてた、おかあさん。あたりまえに、甘えていた。
遅かった。ありがとうを言えなかった。
今度、帰ってから、酔っ払った拍子に、いろいろありがとうね、と言おうと思ってた。
帰る時には、いつも、そう思ってた。
でも、言えなかった。恥ずかしかった。
結局、おかあさんには、ありがとうは言えなかった。
冷たくなったおかあさんの頬に、頬を押し付けて、おかあさん、ありがとうね、と言った。